「発音よければ すべてよし」と煽る挑発的な帯が目に痛い。これは言わずもがな「発音よければ 半ばよし」をもじったもので、もちろん多分に誇張を含んでいることは著者も序言で認めるところだが、本の内容は確かにそう言わしめるだけのものである。
「音声の記号や音声の歴史的な話は最低限度にとどめました。」と言っているが、他の発音テキストに比べれば音声学的な視点での解説が豊富に差し込まれている。理論的にその発音がどうしてそのように発せられるのか知りたがる理屈型の学習者向きだ。
そのためもあって、解説は理路整然としている。「雑音」をすっ飛ばして読むのならば、理論やウンチクに興味がない者にとってもわかりやすいだろう。
関西育ちで関大の教授をしていることもあり、関西弁を引用した解説も多い。わたしは関西人ではないので正しく評価することはできないのだが、関西弁ネイティブの人にはわかりやすいかもしれない。
著者は教室に通っているならば先生の言葉に耳を傾けよ、と言っているが、講師とこのテキストの意見が衝突したらどうするのだろうか。このテキストの解説と講師のそれが食い違っていたら講師の方を疑ってしまいそうなのだが。
他のテキストには見られない音の強弱のようなネイティブスピーカーに迫るための解説も充実している。発音を極めたいと考えている完璧主義者にとっては必携のバイブルとなるであろう。
全体を通して感じられるのが、筆者の発音に対するこだわりである。ここまでこだわったテキストは他に見たことがない。敢えて言うなら、こだわりというよりも発音に対する愛と言ってもよいかもしれない。少なくとも、わたしはそう感じた。
これは私事なのだが、惜しむらくは発行が10年遅かったことだ。10年早ければ、当時あんなに発音に悩むことはなかったのだが。