「中検」「HSK」「TECC」……中国語検定資格試験の選び方
前項で三大中国語検定資格試験である中検・HSK・TECCの特徴についてそれぞれ解説してきたが、本項ではこの三大試験の比較から、それぞれどのような意義を持ち、学習者がどの試験を受けるべきか、という点について考えてみたいと思う。
中検・HSK・TECCの3つの試験は、採用している試験方式と判定評価方法がそれぞれ異なる。これに加え、社会的認知度にも差があり、三者の優劣を比較して絶対的評価による判定を下すのはほとんど意味を成さない。
ここで考えるべきは、中国語学習者として、また中国語試験受験者として、いつ、どの試験を受けるのか、という点である。それぞれに特徴がある以上、その特徴を踏まえて選択することで、その受験の価値を十分に引き出すことができるからだ。
そこで、本項ではそれぞれの試験の特徴からその意義について考え、そこから上述の問いに対する答えを導いてみたいと思う。
中検の意義
中検の特徴はそのレベルで必要とされる項目にポイントが絞られているところにある。故に、中国語学習の進捗に合わせて試験を受けることができるので、羅針盤的な役割を果たすことができる。特に独学者にとっては有意義な存在であろう。
中でも重要になるのが3級試験と準1級試験である。3級試験は初級レベルの習得程度を問う試験である。この試験に合格することは、初級項目を修了していることを意味するので、3級保持者は中級レベルにあることを意味する。
中国語においては、初級レベルと中級レベルにおいて、学習方法に質的な変化が発生する。中検3級試験は、その目安となるわけだ。
また、準1級試験は、中級項目を修了していることを意味し、準1級保持者は上級レベルにあることを意味する。準1級に合格したら、実用面から中国語を考える場合は、ひとまずは上がりであると認識して良いだろう。
また、中検は中国語資格試験として認知度が高く、説明なくともその実力をアピールすることができるので、就職転職におけるセールスポイントとして大きな武器になるであろう。
TECCの意義
TECCの特徴は統一試験におけるスコアとして、1000点満点の1点単位で、細かく受験者のレベルを判定できるところにある。
このため、長期戦となる中国語の中級レベルにおいて、学習成果の指標的役割を果たすことができる。中国語における中級レベルは学習成果を実感しにくいため、多くの学習者が「さまよえる中級」と称される、万年中級状態に陥るのだが、その中で、中国語能力の変動を数字で明示してくれるTECCの存在は、さまよえる中級者たちにとって、大きな心の支えとなり得るであろう。
また、TECCが採用している1000点スコア制は、英語資格として広く認知されているTOEIC(990点スコア制)との比較が容易で、就職転職においてもアピールしやすい。
中検+TECC ~ 互いに補い合う関係
上述の中検とTECCについては、互いに補い合う関係にあると考えてよいだろう。
中国語学習において長期戦となるのが中級レベルなのだが、このレベルに対応している中検試験は2級しかない。これは、級別で評価する中検が学習の節目を重視しているためであるが、この穴を埋めるのがTECCである。TECCは統一スコア制の試験であり、中級レベルを測定するのに最も適しているからだ。
HSKの意義
HSKは級別とスコア制の折衷版であり、この試験一つで初級から上級までカバーすることができる。
しかしながら、日本ではまだ知名度が低いため、資格としてのアピール性を考えると、中検・TECCの受験は欠かせない。逆に考えると、中検とTECCを受験するのならば、HSKはどちらでもよいことになる。学習進捗の指標としては、中検+TECCで十分だからだ。
そもそも、HSKの資格としての意義は、中国留学する場合に発揮されるものである。要は、HSKは英語におけるTOEFLなのだ。中国への留学を考えていないのならば、あえて受ける必要性は低い。
あえてHSKの意義を見出すのならば、上級者向けの高等試験にあるのではないだろうか。まず、TECCは上級レベルに弱い。また、もう一方の中検においては、上級者向けの試験として1級が存在しているが、この試験は事実上通訳試験の性質も兼ねており、純粋な語学試験とは言いがたいところがある。現に、合格率は限りなく低く、大多数を占めるであろう非中国語専門者にとっては、あまり現実的な試験ではない。
これに対して、HSKの高等試験は3レベルに分かれており、かなり細かく上級レベルを測定することができる。日本では市場が小さすぎて成り立たない上級者向けの試験だが、国内の少数民族も含む全世界に向けられ、且つ中国の国家事業でもあるHSKには、市場の制約なるものは存在しない。これがHSKの強みであろう。