中国語検定資格試験の級・スコア方式比較

現行で中国語能力を測定する試験として有名なものを三つ挙げるとすれば、冒頭でも言及した中国語検定(中検)、HSK(漢語水平考試)、TECC(中国語コミュニケーション能力検定)の三試験であろう。

そして、面白いことに、この三つの試験はそれぞれ異なるシステムを採用している。まずは、この三試験のシステム比較を通して、それぞれの試験の意図するところと意義について考えてみたいと思う。

級別検定方式

日本で最も知名度の高い中検が採用するシステム。伝統的(という表現が好ましいのかどうかはわからないが)な級別検定方式である。

詳しい説明は必要ないかと思うが、簡単にまとめるのならば、受験者のレベルに合わせて級を設定し(中検の場合は準4級から1級までの6段階)、級別に試験を実施し合否判定を行うシステムである。

日本では大多数の資格検定試験がこの方式を採用しており、日本人には馴染み深いものである。

級別検定方式の利点は、受験者のレベルに合わせた問題を作成するため、そのレベルで必要となる項目に出題範囲を限定できるところにある。

このため、受験者の中国語力をより正確に判定することができる。次に紹介するスコア方式に比べ、偶然性やあいまい性が小さくなるためだ。

学習者の視点から見ても、当該レベルにおける学習範囲と出題範囲がマッチしているので、学習の進捗を測るための良き指標として用いることができる。要は、中検を中国語学習の羅針盤とすることができるのだ。

級別検定方式の問題点

ただし、この方式には問題点も少なくない。まず第一に、級別検定方式では試験結果は合格と不合格の二つしかない。もちろんスコアも存在するが、それはあくまで合否を判定するためのもので、そのスコア自体が資格としての意義を持つ訳ではない。資格としての意義は、あくまで取得した級で評価される。

このため、例えば同じ2級合格者であっても、往々にしてその実力はバラバラである。ぎりぎり2級に合格した者と準1級合格目前レベルの者のいずれも2級なのだ。

現実にはこの両者の中国語力には大きな差が存在する。しかしながら、中検ではその差を評価することはできない。これが級別検定方式の致命的な欠点である。

また、級別検定方式は、資格としては受かってナンボの試験であるため、併願受験を行う学習者も少なくない。併願受験とは、例えば準1級と2級を同時に受験するというものである。

この場合、それぞれの試験で受験料が発生するため、結果として受験コストは二倍となる。受験料は安いものではないので、受験者の負担は小さくない。

スコア方式

級別検定方式の問題を解消したのがスコア方式である。スコア方式は能力判定としてスコアを用いるため、級という概念は存在しない。

スコアに応じて「ネイティブレベル」とか「ビジネスレベル」などとレベル分けを行うが、レベルはあくまでスコアが示す能力を説明するものであって、公的にはスコアを以って能力判定結果とする。

スコア方式は統一試験制を取り、級別検定方式のように級別に試験問題を分けることはない。受験者の能力をスコアとしてそのまま評価するので、合否という概念も存在しない。これは受験すれば必ず一定の評価を受けることができることを意味する。資格取得という観点から考える場合、級別検定方式のように、不合格で受験自体が無意味になるということはないのだ。

また、同級者の能力差を評価できないという級別検定方式の抱える致命的な問題も解消されている。スコアとして細かい能力評価を行うことができるためだ。TECCの場合満点1000点で、1点単位で能力の高低が評価される。

統一試験制であるため、併願などという面倒で高コストなことを行う必要もない。とにかく分かりやすくてシンプルなのだ。

このため、スコア方式を採用した舶来英語資格試験TOEICが日本でブレークした際、日本を代表する中国語検定資格試験である中検に対して、スコア方式を採用せよ、という中国語学習者の世論圧力がかかったが、結果的には採用されなかった。これは、スコア方式も級別検定方式同様重大な問題を抱えているためである。

スコア方式の問題点

スコア方式の問題は、統一試験方式を採用するため、試験問題が初級から上級まで広い範囲で出題されるところにある。

このため、初級者にとっては難問だらけになるのに対し、上級者にとっては簡単な問題ばかりとなり、受験者の中国語能力によっては、能力評価の精度が相当程度低下することになる

要は、レベルが極端に低い者と、極端に高い者には向かないのだ。敢えて言うのならば、中級向けの試験ということになる。

中検においてスコア方式が採用されなかったのはこのためである。中検までスコア方式となったら、入門と上級レベルを的確に判定する術を失うことになっていたと考えると、賢明な選択であったと言って良いのではないだろうか。

HSKハイブリッド方式

級別検定方式と級別検定方式を組み合わせたハイブリッドタイプの方式を採用しているのがHSKである。

HSKは1級から11級(数字が大きい方が高レベル)までの11段階で級付けするが、中検のように級ごとに試験を実施するのではなく、大きく「基礎」(1級~3級)「初中等」(3級~8級)「高等」(9級~11級)の三つに分けて試験を実施し、それぞれの試験において、スコアに応じて級が割り当てられる。

また、中検やTECCのような「リスニング」と「筆記」というオーソドックスな2分割ではなく、それぞれ「ヒアリング能力」「文法」「閲読理解」の3分割(基礎)、「ヒアリング」「文法」「読解」「総合穴埋め」の4分割(初中等)、「ヒアリング」「読解」「総合表現」「作文試験」「口頭試験」の5分割(高等)と、より細かく分割されている。

級付け判定は総合スコアのみならず、分割された各項目ごとに判定される。初中等の場合は、4項目のうち、3項が当該級のスコアに到達しなければならず、また、1項目が全体のレベルより2レベル落ちる場合、全体評価も1等級低く判定される。高等試験についても類似の規定が存在している。

複雑でわかりにくいと思うので、例を出してみよう。

初中等試験で、総合スコアが7級ラインに到達していたとしても、ヒアリングと文法のスコアが7級ラインに届かなかった場合、6級として判定される。また、同じく総合スコアが7級ラインに到達しており、ヒアリング以外の項目が7級ラインに到達していたとしても、ヒアリングが5級ラインにある場合、6級と判定される。

HSKハイブリッド方式の利点と欠点

HSKハイブリッド方式の利点は級別判定方式とスコア方式の抱える問題点を解消ないし緩和しているところである。

級別検定方式では、不合格と判定された場合、資格試験としてはその意義を失ってしまう。HSKハイブリッド方式では級ごとに試験を分けず、大きく3分割して試験を実施しているため、不合格判定を下される割合は大幅に縮小されることになる。

また、級分けも中検の6つに比べ11つと細かく、同級における能力格差問題も大幅に改善されている。

スコア方式と比較しても、試験が初級向け、中級向け、上級向けと3分割されているため、入門レベルと上級レベルの能力評価精度が低下するというスコア方式の最大の問題を見事に解消している。

このように、級別判定方式とスコア方式が抱える問題を巧みに克服しているが、残念ながら、その分級別判定方式とスコア方式の持つ利点は幾分削られている。

中検は級別に試験を実施するため、そのレベルに集中して問題を出題できるが、HSKの、特に初中等はかなり幅が広く、スコア方式の統一試験に近くなるため、中検にくらべその精度は落ちることになる。

また、TECCでは、評価はスコアで行うが、HSKでは中検と同じく級で評価する。スコアの意義は中検よりは多少大きくなるが、資格としての価値はあくまで級で決定される。TECCのように、スコア1点単位で評価されることはないのだ。

また、両者のいいとこ取りをした分、判定システムも複雑になっている。判定システムの解説をざっと一読してすぐ理解できる日本人受験生はほとんどいないのではないだろうか。

中国語能力のみを問うHSK

判定システムについて長々と書いてきたが、HSKを考える上でもっとも重要な点は、その独特な判定システムではない。

HSKは中国政府(教育部:日本の文部科学省に相当)が認定する中国の国家試験で、中国国内の少数民族及びすべての外国人向けの統一中国語能力試験として位置づけられている。よって、問題も、問題の説明文も、すべて中国語なのだ。

そこには日本語は存在しない。中検では日中翻訳能力を問われるが、HSKは純粋に中国語能力が問われる。あくまで中国語能力のみを判定する試験なのである。

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