中国語の発音の学び方
理屈はさておき、実践上どのように点に注意して学ぶべきなのであろうか。
大人の武器は「理解力」
幼少期なら聞くだけで自然と身についていくのだが、大多数の学習者は若くても10代後半であろうから、「耳学問」で発音を身につけることはできない。
そんな大人たちの武器は「理解力」である。まずは、頭で発音の型を理解するのだ。このように書くと難しく感じるかもしれないが、要は、信頼の置ける発音テキストを一冊買って、唇の形や舌の位置などを理解せよ、というだけの話である。もちろん、しっかりと教えてくれる中国語教室で習ってもよいのだが。
ネイティブスピーカーの落とし穴
その上でどうするか、ここからが肝心である。発音学習は自己完結が難しい。誰かにチェックしてもらわなければその発音が正しいか否かを確認することができないからだ。
もちろん、チェックをするのは誰でもよいという訳ではない。やはり、ネイティブスピーカーなければ難しいだろう。ただし、ネイティブスピーカーであれば誰でも良いという訳ではない。先にも述べたように、標準的な発音ができる人の割合は一般に考えられているほど高くないのだ。おまけに、仮にその人自身は標準的な発音であるとしても、人の発音を聴き取って、的確な指導を行うことができるとは限らない。
これは、いわゆる中国人講師であっても同じである。一口に講師といっても、その質はピンからキリまである。講師だからといっても適切な発音指導を行うための訓練を受けているとは限らないのだ。というか、そのような訓練を受けている講師の方が少ないのではないだろうか。
となれば、その講師が適切な発音指導を行うことができるか否かはその講師の先天的な資質によるところが大きくなる。そのような講師にめぐり逢えるか否かは運次第かもしれない。
もっとも、正式な訓練を受けているような講師は、おそらくそれをセールス文句にするであろうから、その気になれば見つかるのでは、とも思う。少なくとも大都市圏ならば。
あえて日本人を選ぶ
講師を選別する場合、敢えて日本人を選ぶという方法もある。中国人にとって中国語は母語である。彼らは幼少期に「耳学問」で身につけているのだ。これに対して日本人は外国語として中国語を学んでおり、日本人にとって中国語のどの発音がどのように難しいのかを実体験として体得している。彼らの経験は、同じく日本人として中国語を学ぶ者には非常に有用だ。
しかしながら、発音チェックの「リトマス紙」としては、やはり中国人講師の方が無難だ。特に精度の高い発音を目指すのならば、よほど音感のよい日本人講師でもない限り、その大任を果たすのは難しいであろう。この意味では、すこし贅沢になるが、発音指導を得意とする日本人講師と音の聴き分けができる中国人講師をコラボさせるのが理想的な形だとわたしは考えている。
独学は可能か
ネイティブスピーカーと交流がなく、発音チェックをしてもらう機会がない、という人もいるかもしれない。そのような場合、録音機を使って自己チェックするという方法もあるが、聴き分け能力が備わっていることが前提となる。これは初学者には難しいかもしれない。
声調に限って言えば、近年はソフトウェアで自己チェックすることができるようになっており、独学でもそこそこ学ぶことができるようになっているが、母音や子音の確認まではできない。やはり中国人にチェックしてもらうのが良いだろう。
近年は在日中国人の数が増えており、且つインターネットという新たなツールが生まれているので、ネイティブスピーカーを見つけるのは難しいことではないが、正しい発音指導できるとは限らないので、素直に優秀な講師を探す方が無難だとは思う。
通じるレベルの達成方法
「俺は通じるレベルでいいんだ」、という人もいるだろう。確かに、通じるレベルをゴールにしても良しとしたが、そもそもこの「通じるレベル」とはどの程度のことをいうのだろうか。
これは、残念ながら数値化できる明確な基準はない。一般的な中国人との会話に支障を来さなければ、そのレベルに達していると考えてよいのではないだろうか。もちろん、張さんには通じるが、李さんには通じない、というケースもあるかもしれない。ネイティブスピーカーの聞き取り能力もマチマチであるからだ。
ただ一点注意しなければならないのは、通じるレベルを目指して勉強すると、いつまでたってもそのレベルに達しない可能性があることだ。「通じればよい」という姿勢で学ぶと、どうしても学習がおざなりになってしまうのだ。
中国語の発音は日本語のそれとまったく異なる特徴をもつ以上、いい加減な姿勢では身につくものも身につかない。「通じればよい」と考えているうちに変な癖がついてしまい、後々矯正するのに苦労することになるかもしれない。
この意味では、発音はやはり高いところを目指して取り組む方が無難であろう。100点を目指して努力する人が及第点突破に苦労することはないのと同じ理屈である。
その上で、適当なところで妥協するのだ。100点を目指したが、80点から先にはなかなか伸びない。でも、及第点はクリアしているのだから、まぁいいか、という感じで。繰り返しになるが、諦めも肝心なのである。
美しい発音を身につけるために
通じるレベルではなく、本当に美しい標準的な発音を身につけたい、という人もいるだろう。その場合はどうすればよいのだろうか。
もっとも確実な方法はアナウンサー養成学科のある中国の大学に留学することだ。例えば中国传媒大学である。そこでアナウンサー養成学科の聴講生になるか、それが無理でもアナウンサー養成学科の講師か、あるいは優秀な学生に個人授業をしてもらうのだ。これならば、ほぼ間違いなく標準的な発音を身につけることができる。これで身につかなかったら、音感が悪いのでどうにもならないと諦めるしかないだろう。
もちろん、外国人なんだからそこまでこだわる必要はないとも思う。一般的な中国人のレベルに達すれば十分だろう。このレベルならば、発音教育に長ける中国語講師を見つけて、不断の努力を重ねることでも十分に達成可能であろう。
実践上のポイント
最後に、発音練習のポイントを2つほど。
一つに大きな声を出すこと。小声ではダメ。これは発音に限らず音読や会話訓練でも同じ。語学の基本。
もう一つに口の形や声調の抑揚などを大げさにして練習すること。不自然なくらい大げさにして練習した方が身につくのが早い。これは使い慣れない口や舌の筋肉を鍛えるのにも有効。語学に羞恥心は禁物である。