「中国語習得フィージビリティスタディ」で学習プランを設計するための要素として「性格」を取り上げたが、これは一般的に通用している教育理論や学習法がおろそかにしている部分であり、学習者が挫折を招く主因となっている。本項ではこの部分について少し掘り下げて考えていきたいと思う。
性格
まずは「性格」とは何ぞや、というところからはじめる。例えば、よく「語学は根気」と言うが、この「根気」も個人の性格に分類されるものだ。
語学はその性質上根気がある人の方が向いている。語学はいわゆる習い事であるため、短期決戦は不可能である。いかなる方法を採用したとしても、続けなければ絶対に身につかないものなのだ。このため、根気がない人の場合、まずは「如何に継続するか」というのが最重要となる。この学習法は効率が良い、この勉強法は効果が高い、などという話は二の次なのだ。
このような学習者の場合、まずは続かない理由をはっきりさせなければならない。テキストで勉強するのが嫌いなのか、すぐに効果が出ないから続かないのか、学習目的があいまいなのかなど,始めに問題の所在を明らかにすることこそ、実行可能な学習方法を構築する第一歩となるのだ。
相性
この「性格」から派生するものが「相性」である。相性が合う人と一緒にいることは楽しいが、相性が合わない人とは苦痛でしかない。これは学習法も同じだ。
どんなに効果的な学習法であっても、学習者本人が好きになれない場合は、その学習効果は大幅に低減する。無理して実行することはストレスになり、集中力も低下し、また疲れやすいので学習時間そのものも短くなりがちだ。一方、相性が良いものはストレスは小さく、集中力も持続しやすく、また疲れもたまりにくいので長時間実行することもできる。
筆者を例に出してみよう。筆者はディクテーションが苦手だ。ディクテーションの効用も、その実践方法も百も承知しているが、実際にやるとイライラしてくるのだ。一方で音読やシャドーイングは苦にならない。シャドーイングなら2時間続けても平気だ。これを相性という。
なお、同じ学習法でも、その学習強度を調節することで、学習ストレスを改善することができる。例えば、ディクテーションならば繰り返し聞く数を加減することで、強度を調節できる。シャドーイングならば再生速度を調節しても良い。学習強度を調整しても苦になるようなら、その学習方法を採用する必要はない。代替品を探せば良いのだ。
例えばディクテーションはリスニング力向上効果の高いメソッドだが、リスニング力を磨く学習法は何もこれ一つではない。上記の例ならシャドーイングにもリスニング効果があるので、シャドーイングを大量に行うことで、ディクテーション分を補うことができる。
ある意味において、学習プランの設計は栄養バランスを考慮した食事メニューの開発に似ている。同じ栄養成分を補えるのならば、ピーマンでもキノコでもかまわないのだ。可能な範囲内において、自分の好きな食材、語学ならば学習メソッドを採用して、最後に全体のバランスを調整さえすれば良いのだ。食事のメニューならば、好きなものはおいしく食べられる。語学だったら、苦にならない学習メソッドはストレスを大幅に軽減してくれる。ストレスが小さければ継続でき、また学習効果も高くなる。このように、学習法を構築する上で、相性というものは無視できないものなのだ。
オリジナルの学習プランを
一般に言われる「究極の学習法」とは、教育論としては存在し得るものだが、それはあくまで大多数を対象としたもので、最大公約数に基づいて設計されたものでしかない。一介の学習者の立場から考えるのならば、自身と大多数の最大公約数との乖離が大きければ大きいほど「究極」から遠ざかっていく。
多くの学習者は、この乖離を努力で埋めようとするが、そんな努力をするよりも、学習メソッドを自分に合ったものに変える方が楽で、効果も高いのだ。
結局のところ、学習効果を最大限のものにするためには、自分向けにカスタマイズされた、オリジナルの学習プランを設計する必要がある。性格・相性の分析はそのために欠かせない項目なのだ。