中国語の「速読」

リーディングとは文章を読み、理解することです。一口にリーディングといっても、その意味合いは用途や目的によって大きく変わってきます。

私たちの日常の中から「読む」行為を拾い出すと、実にいろいろなものがあります。まずはならべてみましょう。

  1. 読書
  2. 新聞・雑誌
  3. 広告
  4. メール
  5. 請求書

この他仕事で中国語を使っている方には次のようなものも含まれてくるでしょうか。

  1. 資料
  2. 報告書
  3. ビジネスレター

この中でじっくりと読むものは意外と限られてきます。広告を隅から隅まで熟読する人はいないでしょう。たくさんある広告の中から興味のあるものだけ拾い、価格等必要な情報を集めていきます。

新聞も見出しや初めの要約文に目を通して、興味があるものだけを読んでいきます。雑誌も同じです。

じっくりと読むものとしては読書が考えられますが、純然たる情報収集のためのものも多々ありますので、小説とかでなければやはり情報収集の意味合いが強くなります。

このように、日常生活の中で「読む」行為は読んで理解するというだけでなく、限られた情報を集めたり、熟読するに足る文章であるかどうか判断するためのものも多く含まれています。

情報が氾濫している現代社会において情報を選別することはたいへん重要です。特に近年、ビジネスの世界では速度が重要視されているので、この方面の能力は必須です。

このように、現代社会では、内容を正確に読み取る能力だけではなく、高速に処理する能力の必要性が高まってきています。この「高速に処理する能力」が「速読」です。

中国語の速読

速読というと神秘的な響きがあります。それを中国語で、というと即「ムリ」と思われてしまうかもしれませんが、実は速読は比較的技術が確立しているリーディング法であり、考えられているほど難しいものではありません。

特に中国語は表音文字である漢字を使用している上、長い歴史の中で生成されてきた成語が多数存在するなど要約力の強い言語なので、速読に向いている言語でもあります。

そこで、ここではリーディング学習から一歩進んで、リーディングの技術としての「速読」について考えておきたいと思います。

スキミングとスキャニング

速読の技術を代表するものとして、「スキミング」と「スキャニング」の二つが挙げられます。

スキミング(skimming)とは要点だけをすくい取る(skim)ように読む読み方のことをいいます。文章の中には文章を理解する上で重要な部分と そうでない部分が存在します。スキミングとは重要でない部分を読み飛ばし、重要な部分のみを読んでいく読み方です。

読み飛ばす部分があるので読む速度は上がります。ポイントはどこが重要な部分か見分けるところにあります。

これは簡単なことではありません。しかし、体裁の取れた文章にはある程度型というものがあります。文章構造を把握できるようになればスキミングは決して難しいものではありません。

一方、スキャニング(scanning)とは情報を探し出す(scan)ように読む読み方のことを言います。名簿から特定の人物を探したり、電話帳から電話番号を探すのと同じ要領です。スキャニングをすると特定の部分しか読まないので読む速度は断然速くなります。

これら文章から必要な情報のみを読み取る技術を身につけると、読解処理能力を飛躍的に高めることができます。特にTECCやHSK等の中国語資格試験で大きな力を発揮することでしょう。

残念なのは中国語リーディングにおけるこれら速読の技術を学ぶ学習書がまだ世を見ていないことです。もともと小さい市場でもありますし、日本人にとってはあまり障壁とならない分野なので無理もないのかもしれませんが。

推測力

この他速読するに当たって重要になるものが単語の「推測力」です。

文章を読むと必ず知らない単語に出くわします。そのときその単語の意味について考え込んでしまったり辞書を引いてしまったりしていると読む速度はとたんに遅くなります。

このような場合分からない単語はそのままにして先に読みすすめていくことが肝心です。数語分からなくても内容を理解する妨げにはなりませんし、読んでいくうちに文脈から単語の意味がわかることもあります。

100%理解する必要はありません。70%も理解できれば文章の大意はつかむことができます。

これは母語でも同じです。専門性の高い単語の場合、母語でもそれが何を意味するのか分からないことがよくあります。そのような場合、意識的・無意識的に全体の内容から文意を読み取っています。

このように日本語でやっていることをそのまま中国語でやればいいだけです。日本語だろうが中国語だろうが、言語には変わりありません。この点は全ての言語に共通しているのです。

「知識」の活用

速読するにあたってもう一つ有用なものがあります。それは「知識」です。

知識の重要性については以前言及しましたが、これは速読する上で大きな力となります。精通している分野の文章を読むと速度が断然速くなるのはこのためです。これは母語でも同様です。自分が精通している分野だといわゆる斜め読みだって簡単です。

音読の弊害

速読は決して難しいものではないということは分かっていただけたと思いますが、中にはどうしても速読が苦手だ、という方がいるかもしれません。そういう方に共通するのは、単語を音に出して読んでしまっているところです。

音読学習というものもあるように、言語習得において声に出すことはたいへん重要なことです。ただし、リーディングという点から考えると音読には大きな欠点があります。読みあげる速度には限度があるのです。

これは母語でも同じです。読む速度が遅い方は往々にして音に出して読んでいます。たとえ声に出していなくても、口がかすかに動いていたり、頭の中で音をだして読んだりしています。

声に出して読み上げることのできる速度以上のスピードを求めるなら音読をやめるしかありません。字を音に変換する作業をやめ、字から直接意味をとるようにしなければいけないのです。

いきなり中国語で実践するのは難しいかもしれませんので、要領がつかめない場合はまず日本語で練習することをおすすめします。(頭の中を含め)音読せずに文章を読む感覚をつかんだら、なるべく平易な中国語の文章を使用して練習してみてください。

なお、文字を音として読まないようにする訓練は速読の訓練の基本でもあります。日本語の速読については関連書籍も多数出版されているので、これらの書籍で練習してもいいかもしれません。

書籍には例えば次のようなものがあります。

『速読術が日本史でマスターできる本』

速読のついでに日本史まで勉強できてしまう優れものです。面白い発想ですね。

日本語を大切に

速読の技術に関しては言語を問わず共通する点がたくさんあります。と言うよりも、速読に限らず言語間にはそれぞれ共通する点がたくさんあり、中国語の運用においても運用者の日本語における言語能力が大きな影響を与えます。

ここからも、中国語の習得運用において、母語である日本語がいかに大きな影響力を有しているのかわかります。

極論になりますが、中国語の習得は日本語から始まると言ってもいいのではないでしょうか。中国語に没頭する人ほど日本語を軽視しがちですが、これでは本末転倒です。私たちの母語である日本語を大切にするようにしてください。

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