語学の世界でいつからか「~脳」という表現を耳にするようになりました。英語なら「英語脳」、中国語なら「中国語脳」と言ったところです。
「中国語脳」と言うと何か神秘的に聞こえますが、要は私たち日本人が日本語を処理するように中国語も処理するということです。
中国語を始めたばかりの人にはなかなかイメージできないものですが、中国語上級者から言わせればこれは当たり前のことで、これなしには中国語の運用は考えられません。
これができない人が中国語を運用する場合、頭の中でひたすら中⇔日翻訳をすることになります。
例えば中国語で会話する場合、耳から入ってきた中国語を頭の中で日本語に翻訳し、内容を理解した上で自分の返事を日本語から中国語に翻訳して発話することになります。
中国語を使うとはそういうもの、中国語脳なんて中国語の達人のみが有する能力だ、と思われている方もいますが、頭の中でいちいち翻訳することほど非効率で、重労働な作業はありません。
そもそも、通訳・翻訳能力は純粋な中国語力とは独立した能力で、一種技術的なものです。中国語力の高低と通訳・翻訳技術の高低はイコールではないのです。
そして、この通訳・翻訳技術は非常に高度な中国語力を要求されるもので、中国語初中級学習者の手に負えるものではありません。
現に通訳・翻訳者養成学校では、既に高度な中国語力を習得している学習者が四苦八苦しながら通訳・翻訳技術を学んでいます。初中級者が翻訳法を使用することほど無謀この上ないものはないのです。
一方、中国語のまま処理できる場合、上記の中で最も負担の大きい中⇔日翻訳の過程がなくなりますので、内容の理解と返答の内容に意識を割くことができます。
中国語運用能力向上の鍵は、中国語のまま処理する能力を身につけることにあるのです。
このいわゆる「中国語脳」ですが、本来はそれほど難しいものではありません。少なくとも、通訳・翻訳技術を身につけることに比べれば楽なものです。これを神秘的なものにせしめている原因は学校英語にあります。
読解を重視する学校英語ではひたすら日本語訳をします。この日本語訳は文法的理解を深めるのには役に立つのですが、英語で考える能力を育成することおいて、極めて大きな負の効果をもたらします。
日本の学校英語教育では中高8年間にわたって日本語訳をし続けるので、社会に出るころまでには完全に翻訳癖が染み付いてしまいます。
第二外国語として中国語を勉強し始めるときに、この翻訳癖がいわゆる「中国語脳」を身につける障害となっているのが現在の日本の現状です。
このような背景もあり、いわゆる「中国語脳」の習得は中国語習得の一つの分岐点となるといっても過言ではありません。
実際に中国語を中国語のまま処理できる能力を身につけると、「聴く、話す、読む、書く」のすべての分野にわたって、革命的な現象が発生します。自分でも驚くほど中国語が「使える」ようになリます。
中国語脳をつくる
日本人が「中国語脳」を身につけるためには、翻訳癖を抜ききる必要があります。これはコツさえつかんでしまえば難しいことではありません。
和訳癖がつかなかった
まずは私の場合についてお話します。私は学生時代ずっと英語が苦手で大嫌いだったのに加え、受験英語に参加しなかった(※附属高校に通っていたため)ので、学校教育の弊害である和訳癖が染み付かずに済みました。
義務中国語(中学から大学2年まで)を終了してから中国語を始めたのですが、基本的に独学だったため、強制的に和訳をさせられることはありませんでした。
その後中国へ留学しましたが、留学先で一番初めに感じたのがリスニング力不足だったので、とにかくひたすら現地のラジオ放送を聞き続けていました。
訳していてはついていけなかった
このリスニングが中国語で考える力をつける上で大きな役割を果たしました。
私の聞いていたラジオ局のニュースは他の局と比べても読み上げる速度が異常に速いものでした。
早いものを聞いていた方がリスニング力は上がるだろうという単純な考えで選んだのですが、このことが別の面で効果を上げました。
脳に次から次へと言葉が流れ込んでいるので、単語を聞き取ることに追われ、それをいちいち日本語に変換している暇がなくなってしまいました。
ふと気づくと、中国語を中国語のまま聞き取る癖がついてしまっていました。
発音の矯正
リスニング以外の要素として、発音を矯正したことが考えられます。
文法と語彙は国内でかなりやり込んでいましたが、独学だったため発音についてはかなりいい加減なものでした。
このいい加減だった発音を中国で矯正できたため、音と語彙を結びつけることができるようになったものと思われます。
国内でも可能
中国留学という環境があったからこそ中国語で考える力が身についたと考えられるかもしれませんが、帰国後の英語はすべて国内で学習したものです。
日本で英語の勉強し始めた頃は英語力はほとんどありませんでしたが、「外国語は外国語のまま理解するものだ」、と思い込んでいたので、和訳しようという発想は初めからまったくありませんでした。
英語力がないので、初めはまったく理解できませんでした。しかし、そんなことは気にかけません。そのうち分かるようになるだろうと気軽に考えていました。
その後英語力の上昇に伴って、脳の中に英語で情報を処理する部分が育ってきました。
初期の段階では日本語に支えられるような感じでしたが、次第に独立していき、最後には完全に独立した思考体へと変化していきました。
参考になるかどうかは分かりませんが、この頃TOEICで800を越えたと記憶しています。
練習方法
私の経験から考えますと、和訳癖を直す方法として、以下の点がポイントになってくるものと思われます。
1.無理に理解しようとしない
リスニングにしても、リーディングにしても、中国語力が低い段階では内容をすぐに理解するのは難しいものです。
しかしながら、先にも述べたように学校教育では内容を理解することを重視しますので、何かにつけて辞書を引き、和訳させてしまいます。
これが和訳癖をつける原因なのですが、逆に考えれば、すべてを理解しようとすることをやめれば、いちいち和訳する必要はなくなります。
すなわち、和訳癖をなおすには、すべて理解しようとすることをやめればいいのです。
よくわからないところはそのままにしておいてください。中国語力が上がれば、そのうち中国語のまま理解できるようになります。
ちなみに、理解しようとすることをやめるとかなり余裕が出てきます。その余力は単語の音を聞き取ることや、読むスピードを上げることに回してください。
2.発音
リスニングで日本語を介せず中国語で情報を処理するには、音を正確に捉えることが欠かせません。
音の聞き取りがあいまいだと全体の流れや文脈の中から理解しようとします。そして、理解しようとすると日本語で考えてしまいます。
この悪循環を断ち切り、音からそのまま中国語の意味するものをイメージできるようになるためには、正確な発音を身につける必要があるのです。
3.リスニングと音読
リスニングは和訳癖を直すには最適な勉強法だと思われます。リスニングの場合いちいち後ろから訳している余裕はないからです。
これと同じような効果が期待できるものとして、音読があります。音読する場合、発音に注意が向くからです。
最近外国語学習法として音読が注目されていますが、和訳癖をなおすという点からも、おすすめの学習法だと思います。音読については稿を改めて考えてみたいと思います。