中国語の落とし穴

日中同形語にご注意

先にも言及しましたが、古代日本は文字を中国から輸入してきました。

また、これとは逆に近代においては日本で翻訳された西洋の思想学術語彙が中国へ渡り、現在もそのまま使用されています。

このため、中国語を知らない日本人が中国語の新聞を読んだり、逆に日本語を知らない中国人が日本語の新聞を読んだりした場合でも、なんとなく意味が取れることがあります。

しかし、日本語にある漢字すべてが中国で通用するわけではありません。単語が出てこないからといって日本語の漢字を中国語で発音しても通じるとは限りません。

同じくたとえ同じ漢字を使用している単語があったとしても、意味が全く同じであるとは限りません。

例えば、「大丈夫」は、中国語では「一人前の男」を意味します。日本語の「だいじょうぶ」の意味はこれっぽちもありません。

また、単語によっては適用範囲が多少ずれているものもあります。例えば、「中学」は、中国語では「中学」と「高校」の意味を持ちます。区別する必要がある場合は、それぞれ中学を「初中」、高校を「高中」と言います。

中国語で「高校」と言うと、日本語の大学や高等専門学校を意味する言葉となります。ちなみに大学受験は「高考」となります。

日中同形語と呼ばれる、このような日本語でも中国語でも使用されている熟語ですが、これらは日本人中国語学習者にとって大きな落とし穴になることがあります。

日中同形語の分類

日中同形語は大きく次の3つに分けることができます。

A:両国語における意味が同じか、ほとんど同じもの B:両国語間の意味が重なる部分もあれば、食い違う部分もあるもの C;意味の異なるもの

Aには動物や植物、用具の名称、また人名や地名、書名等が含まれます。意味が同じなので、日本人が中国語を話す上で支障になることはありません。日本人にとっては、苦労して覚える必要のない、ボーナス語彙とでもいったところでしょうか。

日本人学習者が注意しなければならないのがBとCです。有名なものに「手紙」(トイレットペーパー)や「老婆」(家内・女房)があります。

このような明らかに違うものは覚えやすくていいのですが、微妙に違うのが一番厄介です。

例えば、日本語の「単純」は「彼は単純な男だ」と言うようにマイナスの語感がありますが、中国語の「単純」にはこのようなマイナスイメージはなく、「純粋」や「純心」な人だというプラスのイメージになります。

このため、日本人が中国語を学習する場合、日本語でそのまま音読みできるような単語に出会ったら辞書で確認するようにした方が無難でしょう。

これを怠ると、後で痛い目を見ることもあります。

例えば、日本語の「検討」は「ご検討ください」と言うように日常一般に使われていますが、中国語でこれを言ったら大変なことになります。

中国語の「検討」は「自己批判をする」という意味です。これを商談中に中国側に対して使ってしまったために、商談が流れてしまったという笑えない話もあります。

日中で前後がひっくり返っている単語

日本語では「主語、目的語、述語」、中国語では「主語、述語、目的語」というように、基本語順に違いがあります。単語の中にはこれを反映して、日中で前後がひっくり返っているものが少なからずあります。

例を挙げると、日本語の「期日」は、中国語で「日期」と、日本語の「紹介」は中国語の「介紹」となります。

こういった単語に出会った場合は、意識して覚えることが肝心です。

地名・人名に要注意

日本では中国語の漢字をそのまま日本の音読みで表現するように、中国では日本語の漢字を中国語の発音で読みます。

「毛沢東」は中国では「mao ze dong」ですが、日本語では「もうたくとう」と読みます。これと同様に、「小泉純一郎」は中国語で「xiao quan chun yi lang」と読まれてしまいますので、何を指しているのかすぐに連想できないことがよくあります。

私も北野武のことを「bei ye wu」と言われ、知らないと言ったら「なんで知らないんだ」と言われてしまったことがあります。

また、西洋の地名や人名は日本と同様音訳が中心ですが、これもお互いの文字や発音の範囲での音訳になるので、知らないと意味がわからないことがよくあります。

中国語で「歌徳」と言われてすぐにゲーテのことだと連想できるのなら、それこそ中国語の才能に恵まれた人でしょう。

全て覚えるのは大変ですが一度だけ目を通しておくだけでも随分違ってきますので、このような資料を読んでおくことをおすすめします。辞書によっては付録のような形でついているものもあります。

なお、これまでお話してきたようなたような中国語に関する雑学は思いもよらぬところで役に立つことがあります。

そこで参考資料として使用できる書籍を一冊ご紹介しておきます。中国語を志す方は一冊持っておくと何かと便利です。

『中国語学習ハンドブック』  相原 茂 (著)  大修館書店

本書は中国語を学習する上で知っておくと便利な情報が詰まっています。いわゆる学習書ではなく中国語百科事典のようなものなので、学習者のレベルにかかわらず使用できます。本項の執筆にあたっても、参考資料として使用させていただいております。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

    関連する記事は見当たりません…