昨年公開した第一章では、これから中国語を始めようとしているか、もしくは既に中国語を始めている人が、どのように英語と向き合うべきなのかについて考えてみた。
本年は第二章として、中国語に興味を持つ英語マスターを含む英語学習者を念頭に置いて、中国語と英語の二ヶ国語習得について考えてみたいと思う。
海外における中国語人気
中国の高度経済成長を受けて、世界的に中国語の人気が盛り上がっている。日本もこの例外ではなく、中国語が第二外国語筆頭の地位を占めるようになって久しいが、2012年に発生した領土問題を機に、日本では中国語の人気が大きく揺らぐこととなった。
一方の海外では、中国語人気は衰えることを知らない。日本は中国の隣国ということもあり、中国語人気が盛り上がるのが早かったが、中国経済の巨大化に従って、中国から遠く離れた地域でも中国語ブームが発生しているのだ。
経済的に魅力のある言語が人気になるのは古今東西変を問わない。中国が経済規模でアメリカを抜くことは確実視されている以上、その言語である中国語の人気は今後も衰えることはないであろう。特に中国の近隣諸国においてはその傾向がより強くなるものと思われる。日本を除く東アジアや東南アジアでは、英語ができなくても中国語でコミュニケーションできる時代が迫っているのだ。
日本における中国語需要の高まり
中国語の需要が高まるのは海外ばかりの話ではない。日本経済新聞社の2014年の日経MJヒット商品番付で、東の横綱として訪日外国人による「インバウンド消費」が選ばれていることからもわかるように、 円安を受けてインバウンド消費が急増しているが、中でも中国人の消費額が突出している。一昔前ビジネス中国語といえば中国現地工場に出向する駐在員が学ぶものだったが、今や国内でも中国語の需要が発生しているのだ。
為替相場は時に大きく変動するものなので、いつまで今の円安傾向が続くかはわからないが、当面の間は中国人の購買力が上昇を続けるのは確実で、かつ経済成長が一段落した後も一定レベルの購買力を保つものと思われるので、中国人のインバウンド消費は今後も無視できない規模で存続するであろう。
派遣先は中国
英語を学んで海外で、という話になると、欧米をイメージする人が多い。しかしながら、実際にはその行く先は先進国ではなく、発展途上国ということも多い。個人ならば好きなところを選べるが、会社から派遣される場合は選択の自由はないのだ。
もちろん、発展途上国はダメだ、という訳ではない。発展途上国は往々にして活気にあふれており、その魅力に取り憑かれる人も多い。しかしながら、様々な面で不便だったり、不衛生だったりすることが多く、潔癖症気味の日本人には馴染みにくいところもある。
治安は押しなべて日本より悪く、所によっては禁酒だったり、女性の社会的地位が著しく低かったりするなど、必ずしも日本人向きの場所ではないのだ。
一方、中国語の場合は基本的には中国となる。日本を抜いて世界第二の経済大国となった中国ではあるが、それは人口が多いためであって、いまだ発展途上国である。日本に比べれば不便なところも多く、不衛生で、治安も悪いのは確かだが、外国人が集中する沿海部の大都市は全体的にレベルが高く、所得レベルも先進国に迫っていることもあって、ハード面では遜色はなくなりつつある。衛生面や治安は日本のレベルが高い分、格差の存在は禁じ得ないが、これは別の国に行っても同じことである。
また、食の面では、料理は中華料理なので、日本人にとってもは受け入れやすい。文化的な相違も、その他地域と比べれば、共通点も多い。日中間の文化比較では何かと相違点が強調されるが、他地域と比べれば、その差は大きくないのだ。
何より、地理的に日本から近い、というのも大きなメリットである。航空路線や発着数も多く、何かあったときにすぐ帰国できる。東京⇔上海間ならば日帰りで出張できるほど緊密なのだ。
中国語学習者の減少
このように高い経済価値を持つ中国語なのだが、日本では日中関係の悪化に伴い、中国語学習者が激減している。これは供給側の減少を意味するので、中国語習得者の価値が相対的に上昇することを意味する。
もっとも、元々中国語習得者が供給過剰だったことを勘案すると、中国語習得者が希少価値を持つほどまでにはならないだろう。しかしながら、大学生ならば、中国語を売りとする同期は明らかに減少するだろうから、就活時に日中関係が好転していれば、中国語が就活の大きな武器となることは間違いない。
また、上述のインバウンド関連需要は日中関係にかかわらず拡大していく可能性が高いので、関連する業界にある者やそれら業界を希望する者にとっては、インバウンドブームが始まった今こそがチャンスであろう。
チャイナ・リスク
もちろん、良いことずくめ、という訳ではない。中国特有の問題点も確かに存在している。代表的なものは、反日感情や大気汚染などだろうか。
もっとも、現地で生活している者の実感としては、日本の報道から受ける印象と現地の実態はかなり異なるものがある。日中間の緊張による現地の対日感情の悪化を不安視する向きも多いと思われるが、庶民レベルでは反日感情を実感することはほとんどない。これは筆者のみに限らず、中国在住邦人によるレポートでもよく見られる意見なので、これが実情なのであろう。
一方の大気汚染は確かに存在する。ただし、これは地域差が大きく、日本でもよく伝えられる深刻な大気汚染は北京一帯で発生することが多い。一方で日系企業が多い上海や広州一帯では、北京ほどの深刻な大気汚染が発生することは少ない。もちろん、それでも総じて日本よりは悪いのだが、近年注目されているインドは更に酷いので、何も中国ばかりの話ではないのだ。
また、大気汚染に対する民衆の不満が高まっており、中国政府も汚染対策に力を入れるようになっている。実は昨年来、北京ではそれ以前に比べ実感できるレベルで大気の状態が良くなっている。2014年については天候や景気減速による排出ガスの減少という要素が大きいと思われるが、汚染対策も少しずつではあるが効果を発揮しつつあるのだろう。
汚染対策は中国の産業構造改革につながるものなので、一朝一夕でなんとかなるものではないが、中長期的には、日本人が派遣されるような地域では、大気の状態はかなりの程度で改善されていくものと思われる。