言語という視点から考えても、日本人にとって中国語というのは面白い存在である。中国語以外に第二外国語として人気のある言語はフランス語やドイツ語、スペイン語だが、これらの言語は英語と同語族で、親戚のようなものである。
英語との共通点が多い分、英語学習者にとっては学びやすいのだが、その分英語と混同しやすく、また知的な刺激も小さくなる。一方中国語は英語とも、また日本語とも異なる語族なのだが、その一面日本語とも文字(漢字)を共用しており、一部の語彙も共通であるという、日本人から見れば不思議な外国語なのだ。
日本人英語学習者にとっての中国語
近代大挙して日本を訪れた中国人留学生たちは、当時西洋から伝わってきた語彙を日本語のまま中国に持ち込んだため、「社会」や「科学」など、現在でも通用している日中共通の語彙が多い。これらは、日本人にとっては「ボーナス語彙」であり、スタートの時点で既に少なからぬ語彙を習得していることになるのだ。
また、中国語はすべて漢字で表記されるが、この漢字自体、日中共通のものが少なくない。これは言うまでもなく、日本の漢字が中国に由来するためだ。これは、中国語の習得において、日本人は圧倒的に有利な条件にあることを意味する。敢えて英語に喩えるのならば、語源に精通しているようなものだろうか。英語学習者ならば、まず例外なく語源を利用した単語学習法に興味を覚えるものだが、日本人ならば、ほぼ無条件で中国語の「語源」に精通していることになるのだ。
これは、語学の中で最も退屈な作業であるボキャビルが、中国語では非常に楽なものになることを意味する。この点だけを取っても、中国語が日本人にとって如何に学びやすい言語であるかわかるだろう。
加えて、中国語の文法は、実用レベルでは英語よりシンプルなので、文法に多くの時間を取られることもない。日本人にとっての難関は発音だが、英語の発音をしっかり学習してきた者にとっては、その敷居は高いものではない。
「r」に代表されるそり舌音などは日本語の発音の中に存在しないため習得が難しいとされるが、英語には存在する。さすがに声調は存在しないが、それでも英語発音未習得者に比べれば、中国語の発音の敷居はずっと低くなる。
このように、日本人英語学習者にとって、中国語は「発音」「文法」「語彙」の3つがやさしい、敷居の低い言語なのだ。このような言語が今、高い経済価値を帯びているのである。
英語へのフィードバック効果も
自分に合った学習法の探索という点から見ても、複数の言語を学ぶのはプラスになることが多い。
一つの言語だけ学んでいると、語学力が大きく伸びた際に行っていた学習方法を過剰評価してしまうケースが多いが、複数の言語を学ぶことで、その学習法をより客観的に評価することができる。
その学習方法で高い成果を得たのは、必ずしもその方法が優れていたとは限らず、たまたまその時に語学力が伸びる要因が揃っただけに過ぎないということもあるのだ。このため、新しい言語の習得は、自分の学習法が正しいか否かを検証する過程にもなる。この中で得た知見は、英語学習にもフィードバックできるのだ。
特に英語は学校教育の中で学ぶので、ゼロから新しい言語を学ぶのは、非常に有意義な経験となる。英語とはまったく異なる語族に属し、且つ日本人英語学習者にとって習得しやすい中国語は、文字通り第二外国語の第一候補となるであろう。