序文
発売日が一年以上延期となったあのキヤノンのZ900がついに発売された。前代より2年越し、3年ぶりとなる中国語電子辞書の王者、wordtankの新作である。
これで毎年マメにアップデート版をリリースする電子辞書市場シェアNo.1のカシオと合わせて、2012年は久しぶりに二大中国語電子辞書メーカーの新機種が出揃った。
このレポートでは、文字通り最強の中国語電子辞書を決定するため、中国語電子辞書市場で覇を競うキヤノンとカシオの2012年モデルのうち、キヤノンの上位機種とカシオの中国語モデル(カシオは上位標準の区別なし)を対象として、主に収録コンテンツについて比較対比する。
また、2012年版では試験的に「入門・初級」「中級」「上級」の3段階に分けて、対象ユーザレベル別で評価を行う。「入門・初級」「中級」「上級」の目安については「評価について」で詳述する。
なお、本項では両社の比較に重点を置いてまとめている。メーカー別の機能や評価についてはそれぞれ個別に評価しているので、別途参照のこと。
また、収録辞書コンテンツは、中国語電子辞書比較表を参照のこと。
目次
評価について
本レポートではキヤノンの上位機種「wordtank Z900」とカシオの「Ex-word XD-D7300」について、収録コンテンツを中心に、項目別に比較してポイントを与える。
評価対象は基本的に中国語コンテンツ及び中国語学習に関連する機能に限定する。また、客観的な数値化が難しい項目は評価の対象外とする。例えば殻の強度や手書き入力の精度などである。
評価方法はユーザレベル別に当該項目の重要度に応じて点数を配分し、それぞれに対しそれを上限として配点する絶対評価方式を取る。
ユーザレベルは「入門・初級」「中級」「上級」の3段階に分類する。おおよその目安は、「入門・初級」は中検3級まで、「中級」は中検3級合格レベルから中検準1級まで、「上級」は中検準1級合格レベル以上とする。
その項目の当該レベルにおいてスコアが対戦相手上回っているものは、わかりやすいようポイントを赤く表示した。
1.総合辞典
基本コンテンツ。大型中日辞典・日中辞典である。これまで、中国語モデルでは日本最大の中日辞典である愛知大学編纂の『中日大辞典』と、小学館もしくは講談社の中日日中辞典という組み合わせがスタンダードであったが、2012年版では、キヤノンが小学館と講談社の中日日中辞典をダブル収録するという快挙を成し遂げ、総合中国語辞典における長期均衡を打ち破った。
この項目は「入門・初級」「中級」「上級」のいずれのユーザにとっても最も重要なので、配分スコアは等しく100とする。新しいスタンダードを生み出したキヤノンに満点、カシオは及第点の60点とする。
スコア
レベル (スコア配分) |
入門・初級 (100) |
中級 (100) |
上級 (100) |
---|---|---|---|
キヤノン | 100 | 100 | 100 |
カシオ | 60 | 60 | 60 |
2.中中辞書
中中辞書とは、いわゆる中国の国語辞典である。中国人向けに編纂された辞書だが、外国人の中国語学習用としても有意義である。特に中国語の語感を身につけるには非常に有用で、中上級者にとっては重要なコンテンツとなる。
2009年以降、中中辞書は中国語電子辞書のスタンダードとなっている。ワードタンクは中国における国民的国語辞典である『現代漢語詞典』(収録語彙数約6.2万語)を、エクスワードは中国最大級の大型国語辞典『現代漢語大詞典』(収録語彙数約10万語)を収録している。
単純に語彙数を比較すれば、カシオが優勢であるが、外国人の中国語学習用としては中国で広く使われている『現代漢語詞典』でも十分である。中検2級の語義問題では、『現代漢語詞典』の定義がそのまま出題されるケースがあることも付記しておく。
スコア配分は、あまり使い道のない「入門・初級」では10、「中級」「上級」は50とする。中級レベルでは『現代漢語詞典』で十分なので双方とも50、上級レベルでは語彙数が大きい点を評価して、カシオに軍配を上げる。
スコア
レベル (スコア配分) |
入門・初級 (10) |
中級 (50) |
上級 (50) |
---|---|---|---|
キヤノン | 10 | 50 | 40 |
カシオ | 10 | 50 | 50 |
3.新語辞典
急速に変化する中国社会を象徴するかのように、現在の中国では日々新語や流行語が生まれている。書籍化されたものを改めて収録するという後追い型の電子辞書が最も苦手とする分野だが、その重要性は日増しに強くなっている。
これまで両者はそれぞれ異なる新語辞典を収録していたが、2012年版よりキヤノンが従来の新語辞典に加えエクスワード収録の新語コンテンツも収録したため、収録語彙の延べ数ではワードタンクが上回っている。
スコア配分は、テキスト中心となる「入門・初級」は10、生の中国語に接する機会が増える中級以降では30とし、中級以降では、収録コンテンツ数の多いキヤノンに軍配を上げる。
スコア
レベル (スコア配分) |
入門・初級 (10) |
中級 (30) |
上級 (30) |
---|---|---|---|
キヤノン | 10 | 30 | 30 |
カシオ | 10 | 20 | 20 |
4.機能型辞書
機能型辞書とは、ここでは文法語法や類義語など、中国語学習上特定の分野に特化した中国語辞書と定義している。
この分野ではキヤノンが先行しており、2009年モデルで文法辞書と類義語辞書をそれぞれ1コンテンツづつ収録した。2012年版でも同コンテンツをそのまま継承している。
収録しているのは『中国語文法用例辞典』と『中国語類義語活用辞典』である。『中国語文法用例辞典』は中国留学経験者には馴染み深い定本『現代漢語八百詞増訂本』を完訳した辞書である。
対するカシオは2011年版で初心者向けの文法学習テキスト『文法中心 ゼロから始める中国語』を収録した。文法辞書とは少し趣が違うが、キヤノンの『中国語文法用例辞典』との比較上これに準ずるコンテンツとして評価する。
また、2012年版では新たに『オールカラー中国語生活図解辞典』なるコンテンツが追加された。中国語の図解辞典は電子辞書としては業界初で、面白い試みである。重要な見出し語にはコロケーションも付いており、何かとおろそかになりがちな生活用語を学ぶことができる。しかも音声付きであるため、初学者には有意義なコンテンツである。
スコア配分は、「入門・初級」「中級」は50、「上級」は評価に値するコンテンツが限られてくるため30とする。キヤノンは、「入門・初級」は『中国語文法用例辞典』を評価して30、「中級」では文法辞典に加え『中国語類義語活用辞典』を評価して50とする。「上級」では『中国語類義語活用辞典』を評価して30とする。
一方のカシオは『オールカラー中国語生活図解辞典』と『文法中心 ゼロから始める中国語』を評価して「入門・初級」では50、中級では20、「上級」は評価対象コンテンツ無しとして0とする。
スコア
レベル (スコア配分) |
入門・初級 (50) |
中級 (50) |
上級 (30) |
---|---|---|---|
キヤノン | 30 | 50 | 30 |
カシオ | 50 | 20 | 0 |
6.英中中英辞書
英⇔中、中⇔英も必要になる使用者にとっては有用なコンテンツである。両ブランドとも収録しているが、語彙数ではカシオの方が圧倒している。
スコア配分は「入門・初級」「中級」「上級」共通して20とする。
スコア
レベル (スコア配分) |
入門・初級 (20) |
中級 (20) |
上級 (20) |
---|---|---|---|
キヤノン | 10 | 10 | 10 |
カシオ | 20 | 20 | 20 |
7.会話
中国語会話コンテンツ。現在のところ主に旅行中国語会話が中心で、辞典型のコンテンツは未収録の状態が続いている。
コンテンツ数ではキヤノンの1コンテンツに対し、カシオは3コンテンツあり、収録項目数でも二倍強となっている。
スコア配分は「入門・初級」は20、「中級」「上級」は10とするが、上級向けの会話コンテンツは収録されていないため、上級レベルでは両者とも無配点としている。
スコア
レベル(スコア配分) | 入門・初級(20) | 中級(10) | 上級(10) |
---|---|---|---|
キヤノン | 10 | 5 | 0 |
カシオ | 20 | 10 | 0 |
8.資格対策
中国語資格対策コンテンツ。キヤノンが2012年版にて収録、英語モデルではスタンダードである資格対策コンテンツゼロの壁をようやく打ち破った。
後追いのカシオは未収録。次回に期待したい。
スコア配分は「入門・初級」「中級」は20、「上級」は10とするが、現実には「入門・初級」レベルの資格対策コンテンツしか収録されていない。
スコア
レベル(スコア配分) | 入門・初級(20) | 中級(20) | 上級(10) |
---|---|---|---|
キヤノン | 20 | 0 | 0 |
カシオ | 0 | 0 | 0 |
9.方言
中国語普通語(標準語)学習用としては必要のないコンテンツだが、方言をちょっとかじってみたい中上級者や、旅行や海外出向で中国の特定地域に滞在する必要のある者にとっては有意義なコンテンツである。
現在方言コンテンツを収録しているのはカシオのみ。キヤノンは2008年版で業界初収録を達成したが、2009年版以降は削除されている。
スコア配分は「入門・初級」は0、「中級」「上級」は10とする。
スコア
レベル(スコア配分) | 入門・初級(0) | 中級(10) | 上級(10) |
---|---|---|---|
キヤノン | 0 | 0 | 0 |
カシオ | 0 | 10 | 10 |
10.その他
上述以外の中国語コンテンツとして、キヤノンは『日本の文化としきたり事典(日中対訳版)』を、カシオは「ピンイントレーナー」というピンイン学習コンテンツを収録している。
スコア配分は「入門・初級」「中級」「上級」共に10とする。
スコア
レベル(スコア配分) | 入門・初級(10) | 中級(10) | 上級(10) |
---|---|---|---|
キヤノン | 0 | 10 | 10 |
カシオ | 10 | 0 | 0 |
11.学習補助機能
ワードタンクは中国語学習を補助する機能が充実しており、テキストビューア機能、単語帳機能、メディアプレーヤー、レコーダー機能、発音比較機能、ディクテーション機能など、特に発音を中心とした多彩且つ強力な学習サポート機能を実装している。
この分野については長年キヤノンがカシオを大きくリードしており、カシオはその差を埋められないでいる。
スコア配分は発音学習機能が重要になる「入門・初級」が50、「中級」は40、「上級」は30とする。
スコア
レベル(スコア配分) | 入門・初級(50) | 中級(40) | 上級(30) |
---|---|---|---|
キヤノン | 50 | 40 | 30 |
カシオ | 10 | 10 | 10 |
入門・初級レベル評価
項目 (スコア) |
総合辞典 (100) |
中中 (10) |
新語 (10) |
機能 (50) |
専門 (10) |
英中中英 (20) |
会話 (20) |
資格 (20) |
方言 (0) |
その他 (10) |
学習 (50) |
満点(300) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
キヤノン | 100 | 10 | 10 | 30 | 10 | 10 | 10 | 20 | 0 | 10 | 50 | 260 |
カシオ | 60 | 10 | 10 | 50 | 10 | 20 | 20 | 0 | 0 | 10 | 10 | 200 |
小括
項目別では3勝3敗5分けなのだが、総合と学習機能で40ポイントの差が付いている。キヤノンが入門・初級レベルで重要になる発音学習機能を有しているのはやはり大きい。入門初級向けの機能型辞典コンテンツや会話コンテンツではカシオが凌駕しているだけに惜しい。
もっとも、発音系機能は別途パソコンソフトなどを購入することでカバーできるので、カシオの電子辞書に馴染んでいるということならば無視できなくもない。しかしながら、その他の学習補助機能も総じてキヤノンの方が優れているので、これから中国語を始めるならばやはりワードタンクで決まりだろう。
中級レベル評価
項目 (スコア) |
総合辞典 (100) |
中中 (50) |
新語 (30) |
機能 (50) |
専門 (10) |
英中中英 (20) |
会話 (10) |
資格 (20) |
方言 (10) |
その他 (10) |
学習 (40) |
満点(350) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
キヤノン | 100 | 50 | 30 | 50 | 10 | 10 | 5 | 0 | 0 | 10 | 40 | 305 |
カシオ | 60 | 50 | 20 | 20 | 10 | 20 | 10 | 0 | 10 | 0 | 10 | 210 |
小括
重要度の高いコンテンツでキヤノンがカシオを軒並み圧倒している。その結果として満点350ポイントで100ポイント近い差がついてしまっている。
これでは最早選択の余地も何もないだろう。
上級レベル評価
項目 (スコア) |
総合辞典 (100) |
中中 (50) |
新語 (30) |
機能 (30) |
専門 (20) |
英中中英 (20) |
会話 (10) |
資格 (10) |
方言 (10) |
その他 (10) |
学習 (30) |
満点(320) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
キヤノン | 100 | 40 | 30 | 30 | 10 | 10 | 0 | 0 | 0 | 10 | 30 | 260 |
カシオ | 60 | 50 | 20 | 0 | 20 | 20 | 0 | 0 | 10 | 0 | 10 | 190 |
小括
項目別ではキヤノンの5勝4敗5分けと僅差なのだが、スコアは70ポイントと大きな差がついている。中級レベルに比べそのスコア差は小さくなっているが、入門・初級よりは大きい。
カシオは上級者が使える機能型辞典を有していないところが痛い。専門辞書や方言コンテンツで少しずつその差は埋めているものの、総合辞典の40ポイント差を埋めるには程遠い結果となった。
総括
2011年の春にリリースされるはずだった次世代電子辞書ワードタンクZシリーズが、よもやの一年遅れとなった。それから1年、カシオも業界初となる図解事典を投入するなどしてきたが、やはり彼我の差は圧倒的であった。
何よりも決定的な差となったのが、キヤノンがZ900で打ち出した新機軸、中国語電子辞書の肝である中日日中辞典において、中国語辞典の双頭である小学館・講談社の辞典をまとめて収録してしまったところにある。これがなければ差は縮まっていただけに、惜しいところであった。
逆に言えば、Z900はキヤノンの中国語電子辞書にかける凄みを感じさせられる一物であった。もし一年前にリリースされていたら、この決戦は目も当てられない結果となっていた。
長く電子辞書市場でトップシェアを占めるカシオだが、こと中国語辞書に限って言えば、スペック的にはキヤノンにフルボッコにされる状態が続いている。まぁカシオにとって主戦場ではない中国語電子辞書市場で負けてもマーケティング的には構わないのだろうが、中国語を学ぶ者としては非常に残念である。
2011年は不戦勝でカシオの独壇場となったのだが、今年は去年のようにはいかないだろう。
もっとも、2011年に限って言えば、キヤノンのリリースが4月の下旬にまでずれ込んだため、3ヶ月先行してシーズン期の需要を取り込んだものと見られるカシオの方が、商売上は勝利しているかもしれない。
カシオに残された時間はあと半年あまり。2013年における巻き返しを期待したい。
追記:ワードタンクZ900の問題について
ワードタンクZ900にはレスポンスやフォントなど、コンテンツ以外の問題が提起されている。詳しくは分析レポートに追記しているのでそちらを確認のこと。
Zシリーズはハード側に大きな改変を加えているため、初期スロットにはいろいろな問題があるようだ。対するエクスワードは保守的でつまらないところがあるが、その分安定性は素晴らしい。
革新性か安定性か……。どちらを取るのかはユーザ次第であろう。
購入のヒント
現実に電子辞書を選択する場合、価格も重要な項目となる。次のページで各社の中国語電子辞書を安く買うための手引きを公開しているので比較検討の材料にしていただきたい。
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