序文
2009年は中国語電子辞書の王者キヤノンが上位・標準の2ラインアップに変更したため、各ブランドの中国語電子辞書は上級者エキスパート向けの上位機種と、初心者向けの標準機種にきれいに色分けできるようになった。
シャープは2009年版をリリースしていないが、2008年版は初心者向けモデル一本であり、中国語電子辞書初心者向けモデル市場は、キヤノン、カシオ、シャープの3ブランド鼎立時代を迎えている。
そこで、本レポートでは、中国語学習用且つ中国語初心者向け、とユーザ層を限定して、各ブランドの優劣を比較対比する。
なお、本項では両社電子辞書の比較に重点を置いてまとめている。それぞれの電子辞書の機能や評価についてはそれぞれ個別に評価しているので、別途参照されたし。
- 【分析レポート】CANON wordtank V923/V823
- 【分析レポート】CASIO Ex-word XD-GF7350/XD-SF7300
- 【分析レポート】SHARP Papyrus PW-LT220」
収録辞書コンテンツは、中国語電子辞書比較表を参照のこと。
なお、上級機種の比較については「【比較検証レポート】最強の中国語電子辞書決定戦 2009年の陣 ~ ワードタンクV923 VS エクスワードXD-GF7350」にて公開している。
目次
評価について
本レポートではキヤノンの最新標準機種「wordtank V823」、カシオの最新標準機種「Ex-word XD-SF7300」、シャープの中国語モデル「Papyrus PW-LT220」について、辞書コンテンツを中心に、項目別に比較してポイントを与える。
評価対象は基本的に中国語コンテンツ及び中国語に関連する機能に限定する。また、客観的に比較しづらい項目は評価の対象外とする。例えば殻の強度や手書き入力の精度などである。
評価方法は当該項目の重要度に応じて点数を配分し、その点数を各社の電子辞書の機能に基づいて両社電子辞書に分配する方式を取る。最後に点数を見ればどの程度の差があるのか一目瞭然になるはずである。
繰り返しになるが、本レポートでは中国語初心者向けの中国語学習用として評価する。中国語入門から初級レベルにある学習者の視点からの分析となる。
1.総合辞典
配分スコア:10
電子辞書を中国語電子辞書足らしめる基本コンテンツ。もちろん、3ブランドとも大型中日・日中辞書を収録している。
ここで、対比上重要になるのが収録音声数である。キヤノンは総合中日辞書として講談社の中日辞典を採用しているが、音声収録数は7.2万語に上る。一方のカシオとシャープは小学館の中日辞典だが、両ブランドとも音声は親字と熟語を合わせて2万強でしかない。入門初級レベルにおける発音の重要性を考えると、この点は無視できないであろう。
ただし、カシオ・シャープ共に親字と重要語彙についてはカバーされているので、実際の学習上で不自由することはほとんどないと思われる。その意味で、この差は致命的なものではないことも付け加えておく。
配点
- キヤノン
- 4
- カシオ
- 3
- シャープ
- 3
2.中中辞書
配分スコア:2
中中辞書とは、日本の国語辞書に当たる中国の国語辞典である。中国人向けに編纂された辞書だが、中国語学習者の視点から見ても、高い有用性を持つ。
しかしながら、入門初級レベルでは中国語レベル的に使いこなすことができないため、なくても学習に支障をきたすことはない。中級レベルに到達して中中辞書が欲しくなった際、いちいち買いなおす必要がないだけである。その意味で、初級レベルにある学習者が、少し長い目で電子辞書の購入を考える場合を除き、その重要性は低いと考えてよいだろう。
そのため、本レポートでは、配分スコアを「2」と低く抑えている。上級機種では5ポイント割り当てていることを、参考までにここに付け加えておく。
日本市場向けの電子辞書で中中辞書を収録していたのは、長くキヤノンのみだったが、2009年版でついにエクスワードにも収録された。しかしながら、カシオは上級機種にしか収録していない。一方、キヤノンは標準機種であっても中中辞書を収録しているところが特徴的である。
シャープも中中辞書を収録していないので、この項目はキヤノンの総取りとなる。
配点
- キヤノン
- 2
- カシオ
- 0
- シャープ
- 0
3.機能型辞書
配分スコア:6
機能型辞書とは、文法語法や類義語など、中国語学習上特定の分野に特化した中国語辞書である。地味な存在ではあるが、学習上その有用性は非常に高い。
中国語電子辞書において機能型辞書を初めて搭載したのはシャープである。次いでキヤノンも2009年版で収録した。
シャープが収録しているのは朝日出版社の『はじめての中国語学習辞典』である。収録語数約1.1万語と初級者向けながら大型の機能型辞書である。対するキヤノンは『中国語文法用例辞典』を収録している。『中国語文法用例辞典』は中国留学経験者には馴染み深い『現代漢語八百詞増訂本』を完訳した辞書である。
カシオはまだこの類の辞書コンテンツを収録していない。次期バージョンでの収録が望まれるところである。
配点
- キヤノン
- 3
- カシオ
- 0
- シャープ
- 3
4.英中中英辞書
配分スコア:2
純粋に中国語を学ぶだけの中国語学習用としては重要性は低いが、英語既習者や、英語も同時に学ぶ学習者にとっては非常に有用な辞書コンテンツである。
この類の辞書は長くキヤノンの独壇場であったが、2009年版において、ついにカシオも収録した。しかしながら、上位機種限定で、標準機種には収録されていない。シャープも未収録である。
配点
- キヤノン
- 2
- カシオ
- 0
- シャープ
- 0
5.専門辞書
配分スコア:3
特定の専門分野に特化した辞書。新語辞書もここに含む。3ブランドとも新語辞書は収録しているが、それ以外のコンテンツについては相違がある。
キヤノンとカシオは『日中英・電子技術用語対訳集』を収録している。カシオはこの他に『日中パソコン用語辞典』と『日中英固有名詞辞典』を収録している。シャープは新語辞書のみとなっている。
配点
- キヤノン
- 1
- カシオ
- 1.5
- シャープ
- 0.5
5.会話
配分スコア:5
カシオは旅行会話3点収録、キヤノンは旅行型1点、総合型1点の計2点、シャープは旅行型1点と総合型2点の計3点収録となる。
ここで目立つのがシャープのコンテンツ。入門者向けのテキストである『必ず話せる 中国語入門』と、中国語通信教育講座『ゼロからカンタン中国語』の場面別スキットを収録するなど、入門者向けの学習コンテンツが充実している。
入門レベルにある学習者にとっては、有意義なコンテンツとなろう。
配点
- キヤノン
- 1
- カシオ
- 1
- シャープ
- 3
7.方言
配分スコア:1
中国語普通語(標準語)学習用としては必要のないコンテンツだが、旅行や海外出向で中国に滞在する場合に役に立つコンテンツである。
2009年版で方言コンテンツを収録しているのはカシオのみである。
配点
- キヤノン
- 0
- カシオ
- 1
- シャープ
- 0
8.その他
配分スコア:4
上記以外の中国語コンテンツをまとめて評価する。ワードタンクには単語学習コンテンツ『中国語基本単語1400』となぞなぞコンテンツ『相原茂編集 挑戦!中国なぞなぞ200』が収録されている。
これに対しエクスワードはピンイン学習コンテンツ「ピンイントレーナー」を収録している。パピルスにはその他コンテンツに相当するものは存在しない。
配点
- キヤノン
- 3
- カシオ
- 1
- シャープ
- 0
9.学習補助機能
配分スコア:6
中国語学習を補助する機能。単語帳機能やテキストビューア機能、MP3プレーヤー/レコーダー機能が一般的である。
キヤノンは、この他に自分の発音を録音してネイティブ音声と比較できる発音比較機能やディクテーション機能、ネイティブの発音に合わせてテキストが表示される「オーディオブック機能」という学習補助機能も搭載している。
シャープもキヤノンの「オーディオブック機能」に相当する「字幕リスリング機能」という機能を搭載しているが、対応しているのは収録コンテンツである『ゼロからカンタン中国語』のみとなる。
この分野についてはキヤノンが他を大きく引き離していると言って良いだろう。
配点
- キヤノン
- 4
- カシオ
- 1
- シャープ
- 1
集計
項目 (配分スコア) |
総合辞典 (10) |
中中辞書 (5) |
機能型 (5) |
英中中英 (3) |
専門辞書 (3) |
会話 (3) |
方言 (1) |
その他 (3) |
学習補助 (5) |
合計スコア |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
キヤノン | 4 | 2 | 3 | 2 | 1 | 1 | 0 | 3 | 4 | 20 |
カシオ | 3 | 0 | 0 | 0 | 1.5 | 1 | 1 | 1 | 1 | 8.5 |
シャープ | 3 | 0 | 3 | 0 | 0.5 | 3 | 0 | 0 | 1 | 10.5 |
総括
キヤノン圧勝。2位のシャープに2倍近い差をつけての、圧倒的な勝利だった。
ここまで大差がついたのは、カシオでは上級機種限定となっている中中辞書と英中中英辞書を収録しているところである。シャープも未収録ということで、ここで各2ポイント、計4ポイント総取りとなったのが大きい。
一方、上位機種で健闘を見せたカシオは、2009年版で売りとなった中中辞書と英中中英辞書が標準機種では収録されなかったので、これといったセールスポイントのないモデルとなった。まさに「標準機種」「スタンダードモデル」の名に恥じないスペックと言って良いだろう。中国語電子辞書の名を語るのに必要な、最低限のコンテンツのみ収録されている。ある意味、見事と言って良いだろう。
シャープは機能型辞書でキヤノンとスコアを分け合った他、会話コンテンツで他を押さえて勝利している。初心者向けに絞られたそのコンテンツ構成は、マーケティング的には良くできている。
もっとも、王者キヤノンと比べると、やはり見劣りしてしまう。他社としては、中中辞書と英中中英辞書まで標準機種に収録してしまうのはやめてくれ、と言いたいところであろう。
逆に、購入側の視点で見ると、キヤノンのこの選択は非常に助かる。中中辞書欲しさに高額の上位機種に手を伸ばす必要がなくなるのだから。
機能的な面でも、中国語初心者にとっては垂涎の機能である発音比較機能を搭載しているのはキヤノンのみである。これから中国語を始める入門者にとっても、また中級が視野に入ってきた初級レベルの学習者にとっても、キヤノンが第一の選択肢となるのは間違いないであろう。
購入のヒント
現実に電子辞書を選択する場合、価格も重要な項目となる。次のページで各社の中国語電子辞書を安く買うための手引きを公開しているので比較検討の材料にしていただきたい。
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