中国語電子辞書風雲録 2009年:カシオエクスワードの逆襲と王者キヤノン新戦略

そして2009年。一時は中国語電子辞書におけるキヤノンへの投降すらささやかれたカシオが、ついに反撃の狼煙を上げた。

2009年版中国語モデル上位機種「XD-GF7350」で、ついに中中辞書と英中中英辞書を収録、コンテンツ面におけるキヤノンとの差を一気に縮めることに成功したのだ。

しかも、採用された中中辞書は中国最大級の国語辞典である上海辞书出版社の『現代漢語大詞典』、語彙数ではキヤノンが収録する『現代漢語詞典』の倍近い大辞典である。また、中英・英中辞書についても、それぞれ語彙数が22万語という大辞典を採用、語彙数的にはキヤノンを圧倒することに成功した。

もちろん、キヤノンも黙ってはいない。2009年版は「wordtank V923」「wordtank V823」という、上下型の二本立てラインアップを採用。うち「wordtank V923」には新たに機能型辞書として類義語辞典と文法語法辞典を追加、またカシオに一歩先んずることに成功している。

また、標準機種である「wordtank V823」も、標準機種とは思えないほどコンテンツが充実している。カシオでは上位機種にしか収録されていない中中辞書と英中中英辞書を収録する他、新たに追加された機能型辞書のうち、文法語法辞典はV823にも収録されているのだ。カシオの標準機種には中国語電子辞書として最低限必要なコンテンツしか収録されていないことを考えると、標準機種レベルではキヤノンが圧勝したと言って良いだろう。

しかしながら、2009年は、キヤノンの独壇場であった中国語電子辞書の勢力図を、カシオが書き換え始めた年となったと言って良いだろう。今後の展開次第では、中国語電子辞書市場は2C(CANONとCASIO)並立時代に突入するのかもしれない。

なお、2009年は中国語電子辞書で覇を唱えるキヤノンの戦略に大きな変化が発生したことが確認された。2009年版では、日本語機能が大幅に強化されているのである。

実は、2008年版のV903には、後に「V903C」という、中国語版取扱説明書が強化されたモデルがリリースされている。これは、キヤノンの中国語電子辞書について、中国人日本語学習者需要が増えていることを意味することを端的に物語っている。中国の国語辞典である中中辞書と英中中英辞書を収録した今、コンテンツ的には中国人向けの日本語電子辞書として十分通用する電子辞書となっているからである。

2008年のV903Cは、あくまで日本人向けの電子辞書に中国語取扱説明者をつけただけのものだったが、2009年版のV923/V823は、本体からして中国市場を意識したコンテンツとなっている。成長を続ける中国市場と、先細りが予想される日本国内市場……常に一歩先を歩み続けているキヤノンの天秤が揺れ始めた2009年は、中国語電子辞書がターニングポイントを迎えた年であると、未来の史書に書き記されるのかもしれない。