まぁ実際のところはそれほど難しいものではなく、すぐに身につきます。特に高く平たい音である一声と、清水寺から飛び降りるような感じの下がり調子の音である四声はわかりやすいようで、これに躓く学習者は基本的にゼロです。
逆に躓きやすいのが三声。「一度低く下がって途中から一気に上がる」という解説に戸惑って、混乱する学習者も少なくないようです。
第三声
声調の音程を低い音程を１とし、高い音程を５とする五段階で音の高さを表す声調表記方法では、第三声は「２１４」とされるように、第三声を「一度低く下がって途中から一気に上がる」と表現するのは間違ってはいないのですが、実は大半の場合三声はこのようには発音されません。
第三声において後半の「４」の部分が発音されるのは、文末や文の切れ目など音がはっきりと切れる部分に限られます。文中に出現する第三声は、後半の「４」の部分は発音されないのです。
「４」が発音されないということは、発音は「２１」となります。実際には大半の場合は「低い音」なのです。
第一声から第四声まで、第三声を除く声調はすべて高い音か、もしくは高い音が特徴になる音なので、低く発音すれば取り違えられることはありません。第三声はとにかく低い音、と覚えておけば良いのです。
このような第三声を「半三声」と言うこともあります。後半部分が欠けるので「半」三声です。うまいこと言うもんですね。
なお、発音に際しては「２１」だから、といって意図的に下り調子にする必要はありません。第一声と対称になる「低く平らな音」というイメージで発音した方が自然な発音になります。
また、「２１４」となる場合も意識して音を上げる必要はなく、低い音を出してから最後に力を抜く感じで発音すれば自然にいい感じの高さにまで音が上がります。第三声は簡単なものなのです。
これは余談になりますが、中国語発音教育における第三声の扱いは変遷を続けています。実態に即していなかった第三声において、後半部分が省略された第三声を「半三声」と定義することから始まり、実践の上では「半三声」こそ真の第三声と言うようになりました。最近は三声を説明する際に、ストレートに「低い音」としてしまうケースもあるようです。確かにこの方がわかりやすいですから。
第二声
第二声は上がり調子の音、ということで、第三声のような変化球ではないため、理解しやすい音です。ただし、「わかる」ことと「できる」ことが別物であるように、必ずしも第二声が簡単であるとはかぎりません。理解しやすい分、かえって日本人をして第二声の音を不得手とさせる原因にもなっています。
第二声は意識して発音する分には簡単です。上げればいいのですから。そして、第一声と第四声も簡単ですから、声調の練習は勢い理解しづらい第三声に集中することになります。
実は、ここに落とし穴があるのです。
第二声は上がる音なので、他の声調に比べエネルギーが必要になります。坂道を登るのが平地を行くのに比べ大きなエネルギーを要するのと同じ理屈です。
そして、人は往々にしてラクをする傾向があります。座る方が立つ方より楽なので、座席があれば座ります。もし横になることができるのなら尚のこと......です。発音もこれに同じく、ラクをできるならラクをしようとする傾向があります。
そのため、往々にして第二声でもラクをしようとしてしまいます。私たち日本人にとって中国語の発音においてラクをするとは日本語の発音に近づくことを意味します。中国語に比べ平坦な日本語の発音に近づくのです。
先の五段階表記では、第二声は「３５」となりますが、知らず知らずのうちに「３４」になり、さらには「３３.５」に......といった感じで、かぎりなく平坦になっていきます。本人は「３５」で発音しているつもりなのですが。
そもそも声調については難しいとされる第三声の方に気が行ってしまい、第二声はおろそかになりがちです。さらには韻母（母音）声母（子音）、そして会話の内容......実践の会話においては、第二声の上がり具合への配慮なんて優先順位は低いですから、結果として平坦な、日本人チックな中国語になってしまいます。
おまけに日本人は中国人に比べ声が小さいので、第二声の弱さが余計に目立ちます。第二声のような骨太な発音を無意識の中で発音し切るのは、日本人には簡単なことではないのです。
この問題を克服するには、入門・初級レベルにおいて、テキストを朗読する際、第二声を徹底して意識して発音することが最も手っ取り早くて、且つ効果的な方法だと思います。中級上級レベルになってしまうと発音が固まってしまう上、テキストの朗読のような学習方法はメインでなくなるため、矯正は難しくなります。入門初級レベルにおいて、徹底して喉に第二声を刷り込んでおくのが理想的です。