平たく言えば、習得の目的をはっきりさせれば、どの能力を重点的に身に付ければよいのかはっきりするということです。
10000時間
この要素を考えるにあたって、まずはじめに理解しておかなければいけないのは、第二外国語として一つの言語を完全に身に付けることは、一般に考えられているよりずっと大変な労力を要するということです。
わかりやすくするため数で考えましょう。10000時間。絶対的なものではなく、あくまでおおよその数字ですが、一つの言語を完全に身に付けようと思うのなら、少なくともこれぐらいの時間は最低限必要になります。
1日1時間で10000日、1日も休むことなく継続しても27年以上かかります。
では、完全なんて言うのはやめて、ノンネイティブとして申し分のないレベル、としてみましょう。半分の5000時間もあれば十分だと思いますが、それでも13年以上かかります。語学とはそんなものです。
第一、外国語云々以前に自分の日本語は完璧だ、と自信を持って言える人はどれだけいるのでしょうか。母語ですらそうなのですから、外国語は言わずもがな、です。語学以前に、言語とはそんなものなのです。
このあたりの話は、これまで「達人」と「マスター」の概念についてまとめてきた中でくどいくらい繰り返しているので、ここでは割愛します。
リストラ
この問題に対して最も有効な対策が「習得目的の明確化」です。目的を明確にすれば、身に付けねばならない中国語の範囲を絞ることができます。
一口に「中国語」と言っても、真に総合的な能力を要求されるものはあまり多くありません。ビジネスパーソンならばリスニングを含む会話能力が、研究目的ならば読み書き能力がより重要になります。
学生の就職対策だったら、何よりも中国語資格を取ることが最優先になります。資格試験は一見すると総合的な能力を要求しているように見えますが、およそ試験というものには一定の傾向があるので、資格試験を前提にして学習プログラムを組むことで、実力以上のスコアを出すことも可能です。
通訳・翻訳は共に外国語専門職ですが、要求される能力は相当程度異なります。まぁ日本の中国語市場では、片方だけではなかなか食べていけないという現実もあるので、両方やっている、という方も少なくないのですが。
夫の中国赴任で中国で生活することになったというご婦人の場合は、ただ単に日常会話ができればよいでしょう。旅行に行くだけなら買い物や料理の注文、道を尋ねる表現などの旅行会話さえできればよいのですから、フレーズ丸暗記で十分です。
このように考えれば、大半の場合において、総合的な基礎能力を身に付けた後はそれぞれの必要性に特化することで、学習所要時間の大幅な短縮を図ることができます。不要な部分や重要性の低い部分は徹底的にカットする、いわばリストラです。学習プランの構築に当たって、目的を明確化することの重要性はここにあるのです。
正のスパイラル
学習範囲が狭まることは、同じ学習時間の中で同じ項目をより多く繰り返すことができることを意味します。語学のキモは「反復」にあるので、その範囲内においてより高い能力を身に付けることを期待できるでしょう。
また、必要になる能力に重点を置いて学習している、ということは、日常の仕事や生活において使用する頻度も高い、ということになります。これは仕事や生活の中で自然に反復練習を行っていることを意味し、その記憶定着効果は抜群です。
このため、特定の範囲内ではありますが、中国語上達の実感を早くから得られるという利点があります。学習の効果を実感できるのは学習動機になりますし、自信にもつながります。
まさにプラスがプラスを呼び込む正のスパイラルです。このような心理的な要素は語学のようなお勉強型の技能習得において、大きな効果を発揮することでしょう。