中国留学と中国語習得
中国に留学しても中国語が身につくとは限らないことについては既に「中国留学で失敗する人」でも言及しましたが、留学はただ単に良好な中国語学習環境が手に入るだけの話で、学習者の学習意欲と適切な学習方法なしではたとえ中国に留学したとしても中国語を身につけることはできません。
逆に言えば、国内での学習環境は中国留学にははるかに及びませんが、学習意欲と適切な学習方法さえ持ち合わせていれば、所要時間は多少長くなりますが、中国語を身につけることができてしまいます。
減少する中国留学の価値
これが30年前だったら話は大きく変わります。かつて中国語を完全にマスターするためには中国留学は欠かせない存在でした。
当時はいかんせん国内の中国語学習環境が貧しかったのです。学習用のリスニングテープすらほとんど存在しませでした。
ゴツイ短波受信ラジオで音声状態の悪い中国発の短波ニュースを拾ってリスニング。新聞は中国からの郵便待ち。日本国内の中国人そのものが少ないのでスピーキングの機会などはほとんどありませんでした。
リーディングやライティングはともかく、リスニングとスピーキングを鍛えるには留学する他なかったのです。
一方で21世紀を迎えた現在、中国語のテキストは選り取りミドリ、中国のテレビ番組は衛星放送やインターネット経由で直接視聴、会話だってチャットソフトを使用すればインターネット経由で音声チャットやビデオチャットまでできてしまいます。在日中国人も急増しており、大都市圏なら中国人を見つけるのも簡単です。
かつて国内では鍛えようのなかったリスニングとスピーキングもインターネットを駆使することでいくらでも練習できるようになった現在、ただ単に「中国語を身につける」という視点で中国留学を考えれば、その価値は大幅に減少しているとしか言いようがありません。
21世紀的中国留学
このように考えてくると、高額な留学費用を用意してまで留学する必要がないと感じられるかもしれません。確かに中国語習得という一点から考えればその通りです。しかしながら、中国留学の利点は中国語の習得だけに止まるものではないのです。
中国語は英語と異なり、基本的に狭義の中国(中国大陸)及び中国人との交流に使用されます。香港や台湾、世界各地の華僑等、中国大陸外にも中国語圏は存在します が、そこは必ずしも中国語の共通語である普通話が通用する世界であるとは限りません。
交流相手が中国人と限定されている以上、交流相手の国の国情や民情を肌身で感じることができる中国留学は、実際に中国語を運用する際において大きな意味を持ちます。
中国がどのような国なのか、そこに住む人は何を考え、どのような行動を取るのか.........これは中国で生活してみないとなかなかわからないものです。本やBLOGなどを通して間接的に学習することはできますが、それら二次的な経験は我が身を以って得る直接的な一次的経験と比べものにはなりません。
この経験は実際に中国人相手に中国語を運用する際、相手の思考や行動様式を理解するのに大きな役割を果たします。このため、特に中国語の専門職である通訳や翻訳を目指す方は、中国語の習得云々にかかわらず、多少無理をしてでも中国に留学することを強くおすすめします。
また、たとえ中国語専門職に就かないとしても、中国語を使う仕事に就きたいと考えている場合は留学できるなら留学しておく方がいいと思います。就職後に留学したくなってもどうにもなりませんからね。