おすすめできない大学卒業直後の留学

これまではあくまで大学四回生を日本で送ることを前提として留学計画を立ててきました。

何しろ大学四回生には就職活動という大仕事が待っています。就職内定が決まるまでは日本を離れるわけにはいきませんから。

一方で、大学卒業後すぐに就職するのではなく、中国に留学してから改めて就職活動を行いたいという方もいるかもしれません。

本稿ではそんな大卒後留学直行プランについて考えてみたいと思います。

即戦力重視

理想と人生プランは人それぞれですので断言はできませんが、一般的な見地から言えば、大卒後就職せずに留学(特に語学留学)してしまうのは、芸術分野などの特定の分野を除きあまりおすすめできるものではありません。

たとえ「中国で働きたい」と考えている場合でも、ビジネスパーソンとして生きていくつもりでいるならやはり日本企業での就業経験が重要になってくるためです。

中国で働く場合「日本人であること」自体が一つの価値となります。そして日系企業にせよ、中国現地企業にせよ、中国で働く日本人に求められる能力は何も語学力(日本語・中国語)ばかりではありません。日本の商習慣に精通していることも重要なのです。現地の給与相場よりはるかに高い給料で日本人を雇用するのはこのためもあるでしょう。

最近は一部日系企業による日本人新卒雇用も始まっていますが、やはり基本は「経験者」、即戦力重視です。

日本で就職する利点

日本で就職する利点は他にもあります。一般に日本の企業はビジネスマナー研修などの新卒研修が充実しており、仕事の段取り等についても先輩がそれこそ手取り足取り教えてくれます。業種にもよりますが、1年2年と時間をかけて一人立ちするのに必要になる知識と技能を叩き込んでくれます。しかも有給で。

日本では当たり前の話ですが、海外、少なくとも中国ではこんな訳にはいきません。中国現地で就職した場合、特に非日系企業で就職する場合はこの日本企業独特の新人教育を受ける機会を失ってしまいます。

手痛いタイムロス

もちろん大学卒業直後に留学し、帰国してから就職活動をするという方法もあります。大学四回生と肩を並べて就職活動することになりますが。

このような場合、企業にもよりますが入社は来春となりますので、仮に1年間中国に留学したとすると、留学1年就職活動1年の計2年のタイムロスとなり、大学の同期より2年遅れでキャリアを開始することになります。

時間的にはいわゆる二浪生と同じ計算になります。業種にもよるでしょうが、生涯賃金まで計算に入れて考えるとかなり高コストなプランであることは間違いないでしょう。

「中国本科留学組」との戦い

留学前の中国語学習プランの設計という観点から見れば、大学卒業直後の留学はかなりゆとりがあります。

ただし、先にも述べたように帰国後の就職活動時点のタイムロス分を考えると、少なくとも中国語力ぐらいは相当なものにしておかないと言い訳にならないので、時間的なゆとりにかまけてのんびりとした学習プランを立てるわけにはいきません。「中国語力には自信があります」と堂々と言える能力を身につけて帰ってきてください。

実のところこれはただ単に言い訳云々の話に止まりません。大卒留学直行組には強力なライバルがいるからです。そう、何を隠そう「中国本科留学組」です。

一般的な見方では、中国語力は中国の大学で学部生として学び、卒業してきた中国本科留学組の方が上とみなされます。中国本科留学組の中国語力にもピンからキリまであるのは知る人ぞ知る事実ですが、企業の採用担当者がこの事実を承知している保障はどこにもありません。

客観的に中国語力を評価できるもの、たとえばHSK、できれば10級ぐらい取って帰ってくるのが理想でしょう。

後はない

実際に大学卒業直後の留学を選択するのは、就職を意識し始める大学三回生後期になってはじめて自分に残された時間がのこりわずかであることに気づいた方が大多数なのではと思います。

この選択は資金的コストもさることならが、時間的コストも大きいプランです。それでも中国語がものになればまだいいのですが、中国語もたいして身につかなかったとなると、次の選択が限りなく細くなってしまう、かなりリスクの大きい選択でもあります。

背水の陣を敷いているだけに学習への意気込みは強くなると思いますが、下手に空回りしてしまったりなんかしたら......正直怖いものがあります。

個人的には慌てて中国留学するよりも、まずは日本で就職して、3年なり5年なり日本社会で揉まれてから中国行きを考えても遅くはないと思います。成功する確率が高くなる一方で失敗してもまだまだ活路はありますから。

それでもなお......という方は............それなりの覚悟を決めて中国へ渡ってください。