記憶が楽になって成長が加速すれば、楽(たの)習状態へと転ずることも容易です(楽(ラク)習と楽(たの)習については連載冒頭の「中国語楽習法 ~ 好きこそ物の上手なれ」を参照)。
これまでは主に復習部分にスポットライトを当て、復習方法を工夫したり範囲を限定する方法で記憶を定着させるアプローチを探ってきましたが、今回は着想そのものを変えて、初めての接触(ファーストコンタクトと言いたかったけどカタカナばかりになるのでやめました)で記憶を深く定着させる方法......早い話記憶術なのですが......について考えてみたいと思います。
記憶術
記憶術というと何やら怪しい響きを感じる方も少なくないかもしれません。少なくとも、世の中には「記憶術」を謳った書籍なり能力開発サービスなりが五万とあります。
語学に限っていっても、特に英語では顕著なのですが、いろいろな方法が紹介されています。「聞き流すだけで云々......」「寝ている間に云々......」というフレーズにどこか聞き覚えがある方も多いことでしょう。
まぁそのようなものはさておいて、外国語を学んでいる以上、程度の差こそあれ誰でも「記憶術」を実践しているものです。映画等を利用して映像と共に覚えるというのも一つの記憶術ですし、さらに言えば書いて覚える、なんていう伝統的且つ極めて平凡な方法もまた然りです。
そのような無数に存在する記憶術を統合して科学的に説明しているものがあります。それが「加速学習法」です。
加速学習法
「加速学習法」なんていう名前がつくとまた何か怪しげな雰囲気を醸し出しますが、その実は極めて科学的なものです。
加速学習法はブルガリアの心理学者ギオギ・ロザノフ博士が開発した暗示教育法をベースとしたもので、それに大脳や感情、記憶などの研究成果を取り込み、そしてそれを学習者自身が実践できる形の自習法としたもので、語学ばかりではなく、広く能力開発システムに応用できる一種の学習方法体系となっています。
加速学習法は単なる記憶術にとどまるものではないのですが、ここでは記憶術について話を進めます。
記憶に関する研究によると、人間の記憶保持力は、文章閲読によるものは20%、聴覚によるものは30%、視覚(画像)によるものは40%、発話によるものは50%、行動によるものは60%にとどまります。加速学習法ではこれらを組み合わせることにより、90%の長期記憶化を狙います。
右脳左脳の役割分担はすでに脳科学で明確にされており、広く知られるところですが、この理論を応用し、左右の脳のバランスを重視、言語や論理をつかさどる左脳と、画像や音声などをつかさどる右脳を協調させることで、記憶効果を高めるのです。
そういえば、「右脳学習」をキャッチフレーズにしている教材がありますね。左脳重視である従来の学習メソッドに対するカウンターパートで、一時期究極の学習法として一部で持て囃されましたが、加速学習法では左右のバランスを重視します。右だけでもダメよ、ということです。
また、脳の状態が学習効率に与える影響も加味し、リラックスさせることで学習効果を高めることも説きます。この話もどこぞで聞いたことのあるようなものですね。教材の中にはバックグラウンドミュージックとしてクラシックを流すようなものがありますが、これはこの効果を狙ったものです。
また、記憶においては右脳のイメージ記憶力を重視し、無機的な語彙をそれぞれ関連付けてストーリー化してイメージで記憶することで長期記憶化を図ります。昔見た映画の場面は鮮明に思い出せますよね。これが右脳のイメージ記憶力で、この能力を語彙の記憶に応用しよう、という訳です。
この他、余計なお世話と言われそうなのですが、加速学習法では記憶を定着させるためにちゃんと寝ろ、と説きます。学習した内容が睡眠中に反復され、記憶を強化する効果があるという研究を反映してのことです。
このように、それぞれどこかで聞いたことのあるようなものばかりですが、それが統合された集大成こそ加速学習法と呼ばれるものです。加速学習法は広く自己研鑽の分野に応用できるものなので、その理論的背景と実践方法について知っておくと、今後何かと役に立つと思います。
加速学習法については次の書籍がおすすめです。興味のある方は一度目を通してみてはいかがでしょうか。
『コリン・ローズの加速学習法実践テキスト―「学ぶ力」「考える力」「創造性」を最大限に飛躍させるノウハウ』(Amazon.co.jp)
私が今後「中国語学習法」の中で紹介していく学習法も、その多くが加速学習法と軌を同じくするものです。まさに学習法のバイブルと言って良いでしょう。
加速学習法を取り込んだ中国語教育システム
中国語テキストや中国語通信講座の中で加速学習法を応用しているものは多くありません。単なる市販テキストでは高度なカリキュラムやメソッドを組むことはできませんし、中国語では通信講座数自体が少なく、バラエティに乏しいのです。
その中で、ほとんど唯一の存在なのですが、加速学習法を取り込んでいるのがロングラン通信講座の『スピードラーニング中国語』 。音声重視、ストーリー化、リラックスさせるBGM等々、それって加速学習法じゃん、と言いたくなるメソッドが多数採用されています。
中国語教育市場においては類似品が存在しないため、選択の余地がないのが悲しいところですね。その点英語は......
スピードラーニング中国語については次のページで分析しています。合わせてご参照ください。