序文
中国語電子辞書各メーカーの新機種が出揃った。今年もいち早く製品を市場投入した電子辞書シェアNo.1のカシオ。ライバルで中国語電子辞書では先を行くキヤノンに先んじること1ヶ月余り。対する王者キヤノンは三月末投入という、相変わらずの余裕?ぶりである。
そのキヤノン、新バージョンでは上位機種と標準機種という、二頭立ての戦略を採用している。先代は一本化戦略だったが、一年であっけなく変更。カシオは従来どおり上位と標準の2ラインアップ、ということで、比較しやすくなった。
本レポートでは、文字通り最強の中国語電子辞書を決定するため、中国語電子辞書市場で覇を競うキヤノンとカシオの2009年モデルのうち、それぞれ上位機種を対象として、比較対比する。
なお、本項では両社電子辞書の比較に重点を置いてまとめている。それぞれの電子辞書の機能や評価についてはそれぞれ個別に評価しているので、別途参照されたし。
収録辞書コンテンツは、中国語電子辞書比較表を参照のこと。
目次
評価について
本レポートではキヤノンの上位機種「wordtank V923」とカシオの上位機種「Ex-word XD-GF7350」について、辞書コンテンツを中心に、項目別に比較してポイントを与える。
評価対象は基本的に中国語コンテンツ及び中国語に関連する機能に限定する。また、客観的に比較しづらい項目は評価の対象外とする。例えば殻の強度や手書き入力の精度などである。
評価方法は当該項目の重要度に応じて点数を配分し、その点数を各社の電子辞書の機能に基づいて両社電子辞書に分配する方式を取る。最後に点数を見ればどの程度の差があるのか一目瞭然になるはずである。
ただし、使用者の中国語レベルや用途によって重視すべきポイントは変わる。総合スコアはあくまで最大公約数でしかないことをここに付け加えておく。
1.総合辞典
配分スコア:10
電子辞書を中国語電子辞書足らしめる基本コンテンツ。これがなければ中国語電子辞書とは言えない。もちろんではあるが、両ブランドとも大型中日・日中辞書を収録している。
加えて上級機種では各社定番となっている上級者・エキスパート向けコンテンツ、日本最大の中国語辞書である愛知大学編纂の『中日大辞典 増訂第二版』も、両ブランド共に収録している。
その意味では両ブランドは同点となるのだが、収録音声数ではキヤノンが圧倒している。V923は総合中日辞書として講談社の中日辞典を採用しているが、音声収録数は7.2万語に上る。一方のカシオは小学館の中日辞典だが、音声は親字と熟語を合わせて2万強でしかない。また、キヤノンはこれに加え『中日大辞典 増訂第二版』の発音音声も14万語収録されている点を考慮すると、総合中国語辞典の発音音声数ではキヤノンがカシオを圧倒している。
ただし、音声コンテンツが重要になるのは入門初級者であることを考えると、上位機種が本来対象としている上級者エキスパート向けモデルとしては、音声コンテンツの差は致命的なものではなく、重要なポイントとはならないことも付け加えておく。
配点
- キヤノン
- 6
- カシオ
- 4
2.中中辞書
配分スコア:5
中中辞書とは、要は中国の国語辞典である。中国人向けに編纂された辞書だが、中国語学習者の視点から見ても、高い有用性を持つ。
辞書を引くだけでもリーディングになるほか、中日辞典では伝わりにくい語感を身につけるのにも有効であるため、中級以降の学習者にとっては非常に有意義な存在である。
日本市場向けの電子辞書で中中辞書を収録していたのは、長くワードタンクのみだったが、2009年版でついにエクスワードにも収録された。しかも、収録された辞書はキヤノンが収録している『現代漢語詞典』(収録語彙数約6.2万語)を語彙数で大幅に上回る中国最大級の大型国語辞典『現代漢語大詞典』(収録語彙数約10万語)である。収録語彙数重視の上級者エキスパートにとっては魅力的な存在となろう。
もっとも、単なる中国語学習用としては、中国で広く使われている『現代漢語詞典』で十分であるのも確かである。このあたりは、使用用途によって評価が分かれるところであろう。
ここでは、語彙数が大きい点を評価して、カシオに軍配を上げる。ただし、その差は大きくない。
配点
- キヤノン
- 2
- カシオ
- 3
3.機能型辞書
配分スコア:5
機能型辞書とは、文法語法や類義語など、中国語学習上特定の分野に特化した中国語辞書である。地味な存在ではあるが、その有用性は非常に高い。
中国語電子辞書において機能型辞書を初めて搭載したのは2008年版のシャープだが、この電子辞書は初心者向けのモデルで、収録された機能型辞書も初心者向けのものだった。
そこに、中国語電子辞書において常に先行していたキヤノンがすばやく反応、早速2009年モデルで機能型辞書コンテンツを二つ収録した。
収録されたのは『中国語文法用例辞典』と『中国語類義語活用辞典』である。『中国語文法用例辞典』は中国留学経験者には馴染み深いであろう定番中国語学習書籍『現代漢語八百詞増訂本』を完訳した辞書である。
カシオはまだこの類の辞書コンテンツを収録していない。このため、本項目においては、キヤノンのポイント総取りとなる。
配点
- キヤノン
- 5
- カシオ
- 0
4.英中中英辞書
配分スコア:3
純粋に中国語を学ぶだけの中国語学習用としては重要性は低いが、英語既習者、英語学習者、翻訳者などにとっては非常に有用な辞書コンテンツである。
この類の辞書は長くキヤノンの独壇場であったが、2009年版において、ついにエクスワードにも収録された。しかも収録された辞書は中英・英中共に大辞典で、収録語彙数でキヤノンを圧倒している。
配点
- キヤノン
- 1
- カシオ
- 2
5.専門辞書
配分スコア:3
特定の専門分野に特化した辞書。新語辞書もここに含めている。
両ブランドとも新語辞書と『日中英・電子技術用語対訳集』を収録している。カシオはこの他に『日中パソコン用語辞典』と『日中英固有名詞辞典』を収録している。
配点
- キヤノン
- 1
- カシオ
- 2
5.会話
配分スコア:3
中国語会話コンテンツ。主に旅行中国語会話が中心だが、キヤノンには総合型の会話コンテンツが収録されている。ただし、V923には標準モデルのV823に収録されている旅行中国語会話コンテンツは収録されていない。
一方のカシオには旅行中国語会話が3コンテンツ収録されている。ちなみにこの3コンテンツはエクスワードシリーズの基本コンテンツで、別言語の電子辞書にも収録されているものである。
配点
- キヤノン
- 1
- カシオ
- 2
7.方言
配分スコア:1
中国語普通語(標準語)学習用としては必要のないコンテンツだが、旅行や海外出向で中国に滞在する場合に役に立つコンテンツである。
ワードタンクは先代V903で中国語電子辞書として初となる上海語・広東語・台湾語の方言3コンテンツを収録したが、V923ではこれらコンテンツは削除されてしまった。一方でXD-GF7350はV903で収録されていた方言3コンテンツをそっくりそのまま収録。方言コンテンツについてはキヤノンとカシオでひっくりかえったことになる。
配点
- キヤノン
- 0
- カシオ
- 1
8.その他
配分スコア:3
上記以外の中国語コンテンツをまとめて評価する。キヤノンは『日本の文化としきたり事典(日中対訳版)』を収録している。日本の文化を中国語で発信するための、中上級者向けコンテンツと考えてよいだろう。
一方カシオは「ピンイントレーナー」というピンイン学習コンテンツを収録。このコンテンツは標準モデルと共通するが、中上級者やエキスパート向けとしては意味のない存在であろう。
配点
- キヤノン
- 2
- カシオ
- 1
9.学習補助機能
配分スコア:5
中国語学習を補助する機能。単語帳機能やテキストビューア機能、MP3プレーヤー/レコーダー機能が一般的である。
ワードタンクは、この他に自分の発音を録音してネイティブ音声と比較できる発音比較機能やディクテーション機能、ネイティブの発音に合わせてテキストが表示されるオーディオブック機能という学習補助機能も搭載している。
この点についてはキヤノンがカシオを大きくリードしていると言って良いだろう。
配点
- キヤノン
- 4
- カシオ
- 1
集計
項目 (配分スコア) |
総合辞典 (10) |
中中辞書 (5) |
機能型 (5) |
英中中英 (3) |
専門辞書 (3) |
会話 (3) |
方言 (1) |
その他 (3) |
学習補助 (5) |
合計スコア |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
キヤノン | 6 | 2 | 5 | 1 | 1 | 1 | 0 | 2 | 4 | 22 |
カシオ | 4 | 3 | 0 | 2 | 2 | 2 | 1 | 1 | 1 | 16 |
総括
先代ではキヤノンが圧勝だったが、本代ではカシオが大幅にその差を詰めることに成功している。それでも総合ポイントではまだ6ポイントの大差となっているが、それでも先代に比べれば、差は確かに小さくなっている。
今回両ブランドの対比で決定的な項目となったのが機能型辞書。エクスワードでは空白になっている項目で、ここで5ポイント差をつけられてしまった。
仮にここで3ポイント獲得すれば、五分五分の勝負に持ち込めていたことになる。中国語電子辞書で常に一歩先を行く王者キヤノンの意地が表れた項目だった。
逆に言えば、それ以外の項目では、総じてカシオがわずかながらも勝っている項目がかなり多いことを意味する。
実際の話、比較対象となった9項目のうち、5項目ではカシオが勝利している。その差は大きくないが、確かに上回っているのだ。
現状のところ、両ブランドで大きな差がついているのが総合中日辞典の収録音声数、機能型辞書、中国語学習補助機能である。この差を埋めることができれば、カシオ夢の中国語電子辞書制覇を成し遂げることができることになる。
事実、用途を限定して考える場合、場合によってはその差はないところまできている。用途から考えるのならば、学習用としてはやはりキヤノンが良いだろう。発音比較機能など、中国語学習補助機能は本当に素晴らしい。
通訳や翻訳など、純粋なエキスパート用としては、大型国語辞典『現代漢語大詞典』を収録しているエクスワードの魅力も大きい。類義語辞典が必要ないのならば、カシオとなるのではないか。
購入のヒント
現実に電子辞書を選択する場合、価格も重要な項目となる。次のページで各社の中国語電子辞書を安く買うための手引きを公開しているので比較検討の材料にしていただきたい。
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