中国版「負け犬」こと“剩女”(余りものの女)

中国でも日本と同様に結婚年齢の高齢化という社会現象が発生しています。特に注目を集めているのが未婚女性の増加で、中国語ではこのような結婚しない(できない)女性たちを揶揄して“剩女”と言います。字で書いて如く「余りものの女」。日本語の「負け犬」もひどいですが、「余りものの女」も嫌な表現ですね。

“剩女”と呼ばれることに反発した女性たちは、“剩女”ではなく“圣女”(聖女)だ、と反論します。“剩”と“圣”が同じ発音であることにかけたものです。

まぁこれに対して「“圣女”を気取っているから“剩女”になるんだ」、と揶揄されることもありますが……

日本語だったら「残り物には福がある」のだから、「福女」だ、と反論しても良いかも。そう言えば、中国語にも“福底”という表現がありますね。“底”は器の底のことで、“福底”で器の底に残った食べ物のことを指します。これは幸福を呼ぶものだから、きれいにすべて食べるように、と子供に言い聞かせる表現です。

剩斗士

話を戻して、「余りものの女」こと“剩女”ですが、中国は日本に比べ多少「男女平等」なようで、“剩男”という表現もあります。この“剩男”と“剩女”をまとめて“剩客”と呼んだりもします。“圣女”と同様に“圣”をもじって“剩斗士”と言うことも。“圣斗士”はあの聖闘士星矢の「聖闘士」です。中国で放映された当時すごい人気になったようで、それが21世紀になって“剩斗士”という表現を生む土壌になっているという、日本とも浅からぬ因縁がある言葉です。結婚圧力と闘う男女の姿を“剩斗士”と読み込んだ、秀逸な表現だと思いますw

ちなみに“圣斗士”と同じく“剩斗士”も金・銀・銅で格付けできるのでは、ということで“黄金”“白银”“青铜”でランク付けされたりもします。

同じく“圣”つながりで、“齐天大剩”という表現もあります。“齐天大圣”は『西遊記』の孫悟空が名乗った称号で、“剩女”の中でも特に高齢で「強い決意」を秘める人たちの尊称なんだそうです。

败犬と丧家狗

日本語の「負け犬」をそのまま翻訳した“败犬”という表現もありますが、非常にマイナーな表現なので通じません。“败犬”が大陸に渡ったのは『败犬女王』という台湾ドラマがきっかけなのですが、普及しなかったようです。中国語は「犬」の地位が低く、キツイ罵り言葉になってしまうからかもしれませんね。

中国語では「犬」は普通“狗”というのですが、“狗”で構成される比喩表現にはろくな物がありません。例えば、“走狗”は「悪人の手先」、“狐朋狗友”は「不良仲間」の意味になります。伝統的にはあれほど「忠」を重んじるのに、忠誠心が強い犬の扱いがここまで酷いのはなぜなのでしょうか。

中国語の“犬”も「犬」の意味ですが、こちらは“狗”のように貶義的なニュアンスはありません。プラスのイメージが強い忠犬の場合は“忠犬”と言う場合が多いようです。

ちなみに「負け犬」を辞書で辿っていくと、“丧家狗”という語彙が出てきます。“丧家狗”は「喪家の狗」として日本語の語彙にもなっているのでご存知かもしれませんが、ここでいう「負け犬」を“丧家狗”とするのはちょっと無理です。ましてや“剩女”(“圣女”でもいいけど)の皆様を指して“丧家狗”なんて言えないですよね。

日本では“剩女”は“丧家狗”と呼ばれる、なんて言ったら、日本はなんて女性蔑視な国なんだ、と思われるでしょうね。ただでさえ、日本は男尊女卑の国である、というイメージがまだ根強いのに。