中国語発音講座 :: 「有気音」と「無気音」の真実

※このページの情報は古くなっています。新しいページをご参照ください。

有気音と無気音の話で避けて通れないのが、「無気音は清音なのか否か」という清音濁音論争です。

「中国語には濁音がない」のだから、中国語の「ta」と「da」のいずれも「タ」と発音しなければならない、という絶対清音派と、無気音は日本人の耳には濁音に聞こえるし、実際に濁音で発音しても問題はない、という濁音容認派が、無気音の発音を巡って対立を続けています。

以前の中国語教育は前者が優勢で、徹底して濁音を使わせない教育が行われていたようですが、最近は後者が優勢になっているようです。

で、私の立ち位置ですが、「一応」後者です。二者択一なら間違いなく後者でしょう。

中国語には濁音はない?

「一応」などともったいぶっているのにはもちろん訳があります。

私はそもそも清音濁音という概念を中国語発音学習に持ち込む必要はないと考えています。だって、中国語(普通語)には清音濁音という概念がないのですから。

絶対清音派の言う「中国語には濁音がない」という表現には瑕疵があります。中国語には「濁音がない」のではなく、「濁音」という概念がないのです。もちろん、これに対応する「清音」という概念もありません。

ここで言う「概念」とは、それによって意味が区別されるか否か、ということを意味します。例えば、日本語では清音「か」と濁音「が」では表すところの意味が異なってきます。「か」と言えば「蚊」、「が」と言えば「蛾」となるように、また「さっと」と「ざっと」では意味が異なるように、清音と濁音で意味が区別されるのです。

一方、中国語では清音で「da」と発音しても、濁音で「da」と発音しても、「da」であることには変わりありません。清音であろうが濁音であろうが、中国人の耳には「da」で処理されます。もちろん、それによって意味が変わってくることもありません。同じ音なのですから言うまでもありませんが。

故に、清音濁音という概念を中国語教育に持ち込む必要はないのです。中国語のピンイン「p/b」「t/d」「k/g」「q/j」「c/z」「ch/zh」は有気音と無気音の区別を表しており、清音と濁音ではない、ということだけ頭に入れておけば良いのです。

紙揺らし測定法

では、「有気音」「無気音」なるものは、いかなるものなのでしょうか。字面からは、「気」がある音とない音、と読み取れるので、そのように理解している人もいるようですね。

実際の話、有気音と無気音の違いについて、「有気音は強く息を出す」「無気音は息を出さない」と説明しているものもよく見かけます。そのような説明には往々にして、口の前に紙を垂らして発音すると、無気音は紙が揺れず、有気音は息を受けて揺れる、という図解が載っていたりします。

「紙揺らし測定法」とでも言うのでしょうか。視覚的にわかりやすいせいか非常にポピュラーで、広く伝わっているようです。これ自体間違っているとは言いませんが、これだけで理解させるのは誤解を生む可能性が高いので、個人的にはいかがなものか、と私は考えています。

破裂音

有気音と無気音は相対的な概念になるため、これを解説する場合、「紙揺らし測定法」に見られるようにその相違点に重点が置かれる傾向が強いのですが、この二つの発音の関係は、喩えるならば「右手」と「左手」みたいなもので、両者とも「手」であることには変わりないぐらい近い関係になります。

そのため、有気音と無気音について正しく理解するには、まず先にその発音そのもの、上記の例に喩えれば「手」について理解することが肝心だと思います。

では、この発音はいかなるものなのでしょうか。

一言で言い表すなら「破裂音」です。息を一瞬せき止め、破裂させて発音するところにその最たる特徴があります。有気音は容易に想像できると思いますが、実は無気音も破裂音なのです。

両者の相違点は破裂させるタイミングの違いにあります。相違点はこれだけです。これさえわかれば後は簡単なものです。

タイミング

わかりやすいように具体例を出して比較してみましょう。音と息の流れを左から順番に並べます。

「pa」

「p」→「息(ここで破裂)」→「a」

声母(子音)「p」の直後に息を流して破裂させます。その後に韻母(母音)「a」が続きます。

「ba」

「b」→「a+息(ここで破裂)」

声母(子音)「b」に続いてすぐ韻母(母音)「a」が流れます。息は「a」の音と同時に流れ、ここで破裂が起こります。

このように、両者の相違点は息で破裂させるのか、それとも韻母で破裂させるのか、という点にあります。相違点はこれだけです。声母と韻母の間に破裂が入っていれば有気音、声母に続いてすぐ韻母が出てきたら無気音となります。

有気音について「紙揺らし測定法」で紙が揺れるのは、声母と韻母の狭間というわずかな間に息を一気に流すためです。一方の無気音は韻母と一緒に流れますから、川の下流域の流れのようにゆったりと流れます。故に紙が揺れないのです。

「紙揺らし測定法」はこの点を理解した上で使用してください。

ちなみに、解説書によっては「無気音」について「最初から声を出す」と書いているものがありますが、声母の直後にすぐ韻母が続くので「最初から声を出す」となる訳です。

日本語との対比

またまた清音と濁音の話に戻りますが、日本語の清音は中国語の有気音ほど気流が強くないので、無気音に聞き取られる場合が少なくありません。一方の濁音は基本的に無気音と取られますので、実践においては有気音を意識して身につけるのが習得への近道となるでしょう。

最も手っ取り早い方法は、無気音は濁音で処理して、有気音を意識して発音するやり方です。発音に過度にこだわる気がないのならば、この方法で十分でしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加